【連載】嵯峨景子のライト文芸新刊レビュー 『星を継ぐもの』を下敷きにした青春SFなど、注目の新刊をピックアップ

深山くのえ『桜嵐恋絵巻 火の行方』(小学館文庫キャラブン!)

 平安時代を舞台に、政敵関係にある二人の許されぬ恋を描く『桜嵐恋絵巻』。かつてルルル文庫で刊行された名作が、書き下ろしを収録した新たな装いで展開中だ。

 藤原詞子は二条中納言家の大君。だが幼い頃にかけられた呪いのせいで鬼姫と呼ばれ、家族からも疎まれている。家にいられなくなった詞子は白河の別邸に移り、ひっそりと暮らしていた。ある日、庭に見知らぬ公達が迷い込むが、彼は左大臣の嫡子の源雅遠だった。ほどなく二人は恋に落ちるが、詞子は右大臣派の二条中納言の娘であり、雅遠の家とは敵対関係にあるのだった。

 雅遠は、災いをもたらす「白河の鬼姫」として世間に知られる詞子と接することを恐れず、彼女を「桜姫」と呼んで通うようになった。無位無官で異母弟にも先を越されていた雅遠は、詞子に気兼ねのない暮らしをさせるため、出世をしようと決意。後宮を騒がせた盗賊事件を解決し、従五位下としてこの秋から出仕している。

 シリーズ第三弾にあたる『火の行方』では、雅遠の身に降りかかる縁談と、帝に一番寵愛されている登花殿の女御を亡き者にしようとする陰謀劇を中心に展開。雅遠は事件解決のために奔走し、詞子も協力することになる。

 すべてを諦めて生きていた詞子は、思いがけず手に入れた今の幸せを壊さないよう、これ以上を望もうとはしなかった。だが雅遠の熱い思いに心を動かされ、彼の気持ちに応えたいという欲が芽生えていく。そんな詞子の心の変化と、糖度を増した二人の甘やかなロマンスが、本巻の大きな読みどころだ。

額賀澪『小説 ふれる。』(角川文庫)

 長井龍雪監督に、脚本の岡田麿里、そしてキャラクターデザインの田中将賀。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『心が叫びたがってるんだ。』など、数々のヒット作を手掛けてきた三者が新たに送る、オリジナル長編アニメーションの公式ノベライズが発売された。

 秋と諒と優太は間振島で育った幼馴染同士。この島には、人と人をつなげてくれる不思議な生き物〈ふれる〉の言い伝えがあった。言葉よりも先に手が出てしまう問題児の秋は、ある日〈ふれる〉を見つけ、これをきっかけに諒や優太と親しくなる。〈ふれる〉の力によって、三人は体に触れれば互いの心の声が聞こえるようになり、以後ずっと一緒に過ごしてきた。

 二十歳の春、三人は〈ふれる〉を連れて上京し、高田馬場のオンボロ一軒家で共同生活を始める。ある日、秋たちはひったくり犯を捕まえて、バッグを盗まれた奈南とその友人・樹里と知り合った。とある悩みを抱えている奈南は、新居が決まるまでの間、樹里とともに居候をすることになるが……。

 実は、〈ふれる〉にはもう一つの恐ろしい力が隠れており、特別な力で固く結ばれていたはずの三人の友情は次第に揺らぎだす。秘密基地のような家での楽しい暮らしが徐々に壊れ、気持ちがすれ違う様には胸が痛くなるが、だからこそたどり着く結末は、より一層大きなカタルシスをもたらすだろう。小説で描かれている青春の輝きと痛み、そして〈ふれる〉を中心に展開される幻想的でダイナミックな場面が、映像でどのように表現されているのか。10月4日公開の映画への期待も高まる。

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