〈アニメイト〉好調の理由は出店戦略にあり? ヴィレヴァンとの対比から見えてきた「わざわざ感」の重要性
世界最大級のアニメショップチェーン
「遊べる本屋」として知られるヴィレッジヴァンガードの業績不振が一部で話題を呼んでいる。一方、同じ「サブカルチャー」を商材として扱いながらも好調な経営を見せているのが「アニメイト」。日本のみならず世界最大級のアニメショップチェーンとして知られ、現在では国内に125店舗、国外に13店舗を構えている(2024年9月現在。公式ホームページより)。かねてから続くアニメ人気や「推し活ブーム」の影響もあり、本店である池袋店の前には、休日ともなると人だかりができることも珍しくない。
本記事ではアニメイトの好調の理由を、その「出店戦略」から考えたい。特にヴィレッジヴァンガードと比較すると、その戦略の妙が浮き彫りになる。
「1都道府県1店舗」を基本とするアニメイトの出店戦略
国内店舗に限って見れば、アニメイトの出店戦略は非常にわかりやすい。その原則は「1都道府県1店舗」である。これが基本にある。ここに加えて首都圏や京阪神を中心とする都市圏では複数店舗を構える場合が多い。
ちなみに、極端に人口の多い東京23区・大阪市・名古屋市・札幌市・福岡市を除く2024年の県庁所在地の人口平均は約50万人で、大まかにみれば、この人口に対して1店舗のアニメイトを構えている。
県庁所在地以外に店舗を置く場合は、県内に中心都市が複数あるときだ。たとえば岡山県の場合、県庁所在地である岡山以外に倉敷市にも店舗を構えるが、倉敷市の人口は約47万人。やはり人口40万〜50万ぐらいに一つの店舗を置くことを徹底している。
この出店戦略はどのように有利なのか。これを、①店舗側のメリットと、②消費者側のメリットの2つの側面から考えたい。実はこの立地、店側と消費者側、両方にとって有利に働くのだ。
100店舗でオペレーションを安定させる
まずは店舗側から。この出店戦略に忠実なことで、アニメイトの国内店舗数は125店舗と、100店舗をやや超えたあたりで安定している。実はこの100店舗、全国チェーンとしては経営が安定しやすい店舗数だといえる。
チェーンストアの理論的な面でいうと、100店舗を超えると、そのチェーンはナショナル・チェーンと呼ばれることが多い。ナショナルとは「国」を表し、地域特有のチェーンから、全国的なチェーンになる第一歩が100店舗だということだ。ネクスウェイが全国のチェーン店店長を対象にしたアンケートによれば、だいたい「感覚値としては30、50、100、300店舗という幅で今まで通りが通用しなくなる」らしい。100店舗は、全国に店舗が広がり、それまでのオペレーションが通用しなくなるターニングポイントだということだ。
アニメイトは、2015年に全都道府県への出店を果たしているが、その3年前に、それまで地域ごとにバラバラだった経営体制を「株式会社アニメイト」として統一している。全国チェーンになるのを見越しての経営統合だったのかもしれないが、このようにしてナショナルチェーンとしての準備をしっかりできたことも、アニメイトが安定しているように見える理由の一つだろう。そして、100店舗から多くは店舗数を増やしていない。オペレーション的に非常に安定しているのだ。
ちなみに、ヴィレッジヴァンガードはこの点で対照的。
というのも、ヴィレッジヴァンガードは2002年に100店舗を達成してから、2008年には300店舗超えを達成しており、わずか5~6年のうちに、経営段階が変わる300店舗を達成している。100店舗を超えたにも関わらず、経営の安定を待たず、急激に次の段階である300店舗を達成してしまった。これが、現在の経営の不安定さにつながっているのかもしれない。ちなみに、一時500店舗ほどまで膨らんだ店舗数は、ほぼ300店舗になっており、この300店舗段階での経営の安定を図っているのが、現在のヴィレッジヴァンガードの姿だともいえるだろう。
「アニメイトに行く」という「わざわざ感」を生み出す出店立地
また、アニメイトのこうした出店立地は、消費者の側からしてもメリットがある。というのも、ちょうど一都道府県に1〜2店舗だと「アニメイトにわざわざ行く」感が生まれるからだ。個人的な感覚で書くことを許して欲しいのだが、おそらく、あるカルチャーがそのブランド力を毀損しない範囲で流通するためには、この「わざわざ感」が必要不可欠だと感じる。たとえばコンビニのように、「どこにでもある」のは便利だし、コンビニであればそれでよい(なぜなら消費者はコンビニにカルチャーではなく、便利さを求めているからだ)。しかし、もし、アニメイトやヴィレッジヴァンガードがコンビニのように増えてしまえば、カルチャーを享受する場所というより、デイリーユーズのように気楽なものになってしまい、その「わざわざ感」が失われてしまう。カルチャーとは、この「わざわざ感」がなければ基本的には成立しないのではないか。
一方で難しいのは、<チェーンストア>とは、基本的に同じような店を増やして、「どこにでもある」ようにする仕組みだということ。カルチャーが持つ「わざわざ感」と相性が悪いのだ。だからこそ、カルチャーを扱うチェーン企業は、それをどのように増やし、どのようにセーブをかけるべきかを慎重に考える必要がある。
その点において、アニメイトの出店は、確かに「カルチャーをカルチャーらしくする」ときに、ちょうどよい出店数だといえるだろう。