Netflixドラマ『極悪女王』とあわせて読みたい! 傑作ノンフィクション『1985年のクラッシュ・ギャルズ』
9月19日からNetflixにて配信される『極悪女王』。女子プロレスラー・ダンプ松本を主役とするこのドラマの副読本としてぜひとも一読をオススメしたいのが、柳澤健の『1985年のクラッシュ・ギャルズ』(光文社未来ライブラリー)である。
80年代、極悪同盟を率いて全日本女子プロレス(以下全女)のリングを荒らしまわったダンプ松本。チェーンを首に巻き付けてのチョーク攻撃や一斗缶での殴打、負傷箇所を集中的に狙った攻撃や竹刀を使ったキャメルクラッチなど、「極悪」の名に恥じない過激なファイトスタイルは、お茶の間に強烈なインパクトをもたらした。『極悪女王』は、心優しい女子レスラーだった松本香がなぜ悪のレスラー・ダンプ松本となったのか、そして同時代の全女はいかなる状況にあったのかを描いたドラマだ。
そのダンプ松本が抗争相手として選び、壮絶な試合を繰り広げたのが、全女史上最高の人気を誇ったユニットである「クラッシュ・ギャルズ」である。長与千種とライオネス飛鳥によって結成されたクラッシュは、当時の女子中高生の間で強烈な人気を得たことで女子プロレスのファン層を一変させ、社会現象を巻き起こした不世出の存在だ。
では、そのクラッシュ・ギャルズはいかにして生まれ、いかにして戦い、全盛期を迎え、解散し、そして長与と飛鳥の二人はその後いかなる人生を歩んだのかを描いたノンフィクションが『1985年のクラッシュ・ギャルズ』である。はっきり言ってこの本は圧倒的に面白い。自分はすでに10回くらい読み返しているのだが、読み返すたびに「こんなに面白いことが、現実にあっていいのかよ」と毎回思っている。
コンプライアンスなどという単語すら認知されていなかった昭和の時代、全女は年若い女性同士を本気でいがみ合わせ、その鬱屈や怒りをリングの上で爆発させるシステムで興行を回していた。そんな団体に、長与千種と北村智子(ライオネス飛鳥の本名)という二人の少女が入門する。壮絶な生い立ちを持ちながらプロレスラーとしてはフィジカルに恵まれず、「雑草組」の立場に甘んじる長与。一方の飛鳥は運動神経に恵まれ圧倒的な強さを誇りながら、観客に訴えるものがなく試合が退屈であるという欠点を抱えていた。この二人が1983年1月4日の後楽園ホールで行なった運命的な試合がクラッシュ・ギャルズ結成へと繋がり、クラッシュは女子プロレス史上最も有名なタッグへと成長していく。
プロレス、わけても女子プロレスを愛する柳澤の筆致は熱い。インタビューや裏取り取材を前提としつつも、エモーショナルな盛り上がりも各所に配されており、ノンフィクションにも関わらず読んでいて「本当にこんなに劇的なイベントがあったのかよ……」という気持ちになる。しかし、異常なイベントが異常なタイミングで起こるのが、バブルを目前に控えた80年代という時代だったのだろう。試合をやる方も必死なら、見る方も必死だった「あの頃」の物語が、極上のリーダビリティで展開される。