外食は身体に良い!? 筋金入りの外食者・新保信長『食堂生まれ、外食育ち』インタビュー

たまに出ていた粕汁がもう一回食べたい

——なるほど。体調管理する方、特にダイエットをされている方は一週間の食事の流れを決めたり、今日はこってりだったから明日はあっさりにしておこう、とか調節されますが、そういうことはされていますか。

新保:それも気分次第というか。バランスを取るのはいいですけど、いろいろ食べたいじゃないですか。いろんなものを食べたい、という方針で決めていくと、自然とバランスは取れるんです。身体の声を聞けばいいんですよ。野菜が足りなければ「野菜食べたい」ってなると思うんですね。

——お酒は飲みたくないです、とは身体は言わないんでしょうね(笑)。そうやって自然体で外食をされているわけですが、これだけは嫌だ、みたいなことはあるんですか。

新保:これも書きましたけど、「甘いデザートいらねえな」と(笑)。台無しって感じするんですよね。せっかくおいしいもの食べておいしいお酒飲んでるのに、「なんでケーキが出てくるの」「あんことか要るの」って思うんですよ。

(C)おくやま ゆか

——デザート好きの女子をいま敵に回しましたね。甘いもの全般がダメなわけじゃないですよね。食後に出るのが嫌で、その分お酒を飲んでいたいわけですか。

新保:そうですね。ワインだったらちょっとしたチーズで赤を少し、みたいなのもいいですよ。お弁当に甘い煮豆が入ったりするのあるじゃないですか。あれも要らないです(笑)。

——あれもですか。崎陽軒シウマイ弁当のアンズもダメですか。

新保:あれもいらないですね。

——私は好きなんですけどねえ。なるほど、新保さんの嗜好がわかってきました。かなり特化してますね、お酒のほうに。甘いものはダメではないけど、そんなに必要としない。で、炭水化物も必要最小限だけあればいいと。

新保:お酒のときにご飯はいらないですね。「ステキなタイミング」で書きましたけど、作家の新井素子さんはお酒も好きだがご飯も好きで、宴会の席でも本当は最初からご飯が出てきていると嬉しいそうなんです。でもご飯を食べるともう飲まないと思われて困ると。そういう方の気持ちはわかるんですけど、私はご飯要らないんです。

——お酒に特化してますねえ。ちょっと話題が替わりますが、先日、『孤独のグルメ』(久住昌之原作/谷口ジロー作画。扶桑社)がテレビドラマ主演の松重豊監督・脚本で映画化されることが発表されて話題を呼びました。今、グルメ漫画は百花繚乱といいますか、本当になんでもありです。大食いして血糖値が上がっちゃう話までありますからね(『ドカ食いダイスキ!もちづきさん』。まるよのかもめ作。ヤングアニマルWEB連載中)。その中で新保さんのお気に入りを一つ二つ挙げていただくとすると、何でしょうか。

新保:難しいですねえ。今ほんとにいっぱいあるからなあ(と探しに行く)。

——読者の方に説明すると、この場所は新保さんの仕事場で、結構な漫画資料室があるのです。グルメ漫画棚もあるとかで。あ、戻ってきた。どれですか。

新保:施川ユウキ『鬱ごはん』(ヤングチャンピオン烈コミックス)、好きなんですよね。

——『鬱ごはん』いいですよね。始めのころは単なるぼっち飯の話だったのが、だんだん人間存在を問う話になっていって。

新保:そうそう。また酒の話になっちゃうんですけど、食の漫画を読むと「なんでこれ食べるのに酒飲まないんだろう」って思うんです。井之頭五郎みたいな下戸なら仕方ない。そうじゃないのに、全然飲まないのとかは納得いかなくて、そこに引っかかったりします。あと、実在の店を出してくる漫画がけっこう多いんですけど、それはそれで情報漫画としてはありなんですよ。ただそこに無理矢理感があると嫌だなと。

  要は、店の紹介ありきで描いてるみたいな。そこにはストーリーというか、ある程度は物語性があってほしいんですよね。『鬱ごはん』は、出てくるものもおいしそうとは言い難いところはあるんだけれども、食べるということに対する哲学性みたいなのがすごいおもしろいですよね。もう一つ『酒と恋には酔ってしかるべき』(はるこ作/江口まゆみ原案協力。A.L.C.DX)は、酒好きのOLの話です。本当に好きっていう、酒愛が溢れてていい。ストーリーもおもしろいし、ちょこちょこ出てくるつまみもおいしそうに描かれていて、割と好きですね。

——ありがとうございます。最後にもう一つだけ。ご実家の丸万はもう廃業されてしまったわけですよね。その営業最後の日に駆けつけられていたとしたら、頼みたかったものはなんでしょうか。

新保:もし行けてたら、きつねうどんを注文してたと思うんです。やっぱ基本だから。

——大阪の食堂の基本だから。丸万で召し上がった中で、特に記憶に残っているものはなんですか。

新保:これは本に書いてないんですけど、従業員のまかない飯があったんです。昼は3時、夜は店が終わってから。僕が幼いころは、かなり遅くまで店をやっていました。売り上げ目標を達成するまで開けていたんじゃないかと思いますけど(笑)。その終わりに食べるまかないで、たまに出ていた粕汁がもう一回食べたいなと思う料理ですね。具はニンジン、ダイコン、ゴボウ、コンニャク、あとシャケです。毎日メニューのものを食べていると、種類があるとはいえ飽きるじゃないですか。メニューにないまかないのものがときどき余るんですよ。それを食べた中に粕汁があるわけです。丸万でもう一回食べたいとしたら、それかなあ。

——『食堂生まれ、外食育ち』作者の思い出の一食がまかない。いい話ですね。

■書籍情報
『食堂生まれ、外食育ち』
著者:新保信長
イラスト:おくやまゆか
価格:1870円
発売日:2024年7月5日
出版社:KKベストセラーズ

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