【ライトノベル最新動向】『魔法科高校の劣等生』の佐島勤による新シリーズ始動 7月の注目ライトノベル

 7月のライトノベルは、『魔法科高校の劣等生』シリーズの佐島勤による新シリーズ『神々が支配する世界で』(電撃文庫)が7月10日に上下巻で一挙発売。地球に神々が現れ、人類を大災害から守りながらも資源を奪ったり、奴隷として使役したりする訳でもない。求めるのは敵対する邪神と戦う適性を持った戦士だけ。小説ではその戦士に選ばれた少年による戦いが描かれる。

 主人公の新島荒士は神々が与える『神鎧』を着こなす適性を持っているだけでなく、女性しか着こなせなかったF型の『神鎧』に男性としてただ1人適性があったことから注目の的になる。訓練のために通うようになったアカデミーはF型に適性のある女性ばかり。うらやましさが漂うシチュエーションだ。

 もっとも、そこで鍛えて立ち向かうことになる邪神の側に所属する元戦士たちもいて、神々は実は人類の敵だと主張していることから、単純な勧善懲悪の構図ではなさそうなことが伺える。荒士の戦いは果たして正義なのかそれともといった疑問が漂い続けるストーリーは、『魔法科高校の劣等生』のように最強の"お兄様"が向かうところ敵なしと活躍していくものとは違った複雑な味わいがある。真の正義はどちらなのか。続くなら読んでいきたい新シリーズだ。

 強大な力によって抑圧された世界が舞台のストーリーでは、第18回小学館ライトノベル大賞で優秀賞の中島リュウ『砂の海のレイメイ 七つの異世界、二つの太陽』(ガガガ文庫)も面白そう。空に7つの異世界が現れて文明が砂の海に沈んでしまった世界。力だけが法だといったような状況で、海賊のレイメイが100年の眠りから覚めた忍者と出会い、絶望に沈んだ世界で大暴れをする。ゲスト審査員でアニメ制作会社トリガーの宇佐義大副社長は選評で、「アクションのシチュエーションやシークエンスが凝っているので、コミカライズに向いた作品」と評していた。小説としても躍動感に触れられそうだ。7月18日発売。

 同じく7月18日発売で、こちらも第18回小学館ライトノベル大賞で優秀賞となった篠谷巧『夏を待つぼくらと、宇宙飛行士の白骨死体』(ガガガ文庫)は、タイトルからすでに興味をそそられる。緊急事態宣言も明けて以前のような日常になりつつあった2023年7月。受験生だった主人公たちが思い出作りと称して旧校舎に忍び込み、物置小屋の扉を開けるとそこに宇宙服を着た白骨死体があった。面白そうな要素がてんこ盛りだけに、実際のストーリーでそれらがどう絡んでくるかに注目だ。

 第16回講談社ラノベ文庫新人賞で優秀賞となって登場の神岡鳥乃『空冥の竜騎』(講談社ラノベ文庫)は7月2日発売。感覚を同期させることで竜を乗りこなせるようになる〈竜騎〉として戦場で活躍しながらも失敗して左遷され、士官学校に勤めるようになった男が馴れない教師の仕事の中でシエルという名の女子生徒に慕われる。挫折から回復するストーリーがあり、夢に向かって進むドラマがありそうな作品だ。

 こちらはMF文庫Jライトノベル新人賞への応募作だが、受賞はせず選外からの拾い上げとなった小林達也『スワンプマン芦屋沼雄(暫定)の選択』(MF文庫Jの単行本)。タイトルにあるスワンプマンとは、ある人間が雷に打たれて死んだ際に、すぐそばにある沼にも雷が落ちて死んだ人間と成分も同じなら記憶も受け継いでいる人間が現れたとして、それは本人か違うのかといった思考実験に登場する一種の模造人間を指す。

 『スワンプマン芦屋沼雄(暫定)選択』では、主人公の少年がある実験を受けたことでスワンプマンになってしまった可能性が生まれ、その真偽を確かめるために調査に乗り出すストーリーの中で、スワンプマンは本人なのか違うのか、人格を形作っているのは意識なのか魂なのかといった問いが投げかけられる。哲学できてミステリアスな経験も出来る異色のラノベ作品だ。

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