「響け!ユーフォニアム」黒江真由の“真意”とは? 待望の新刊で明かされる過去

 「~幕間・アジタート~」というエピソードには、奏との会話の中で真由が、「同窓会に呼ばれたいんだ、私」と言う場面が描かれて、どこか居場所を求めて止まない真由の心情を浮かび上がらせる。父親の仕事の都合で転校が多かった真由が、小学6年生で転入した学校で経験したことが綴られた「賞味期限が切れている」からも、繋がりを求めて止まない真由の性格が形作られていった過程が伺える。

 そうした思いを抱えて生きてきた真由が、北宇治高校に転入して3年生で吹奏楽部に入った時に、どれだけの葛藤を抱えていたかを改めて思うと、心にグッとくるものがある。原作の展開にも十分に納得がいく。そして、『北宇治高校吹奏楽部のみんなの話』の表紙に"北宇治カルテット"に混じって描かれ、中編「未来への約束」の中で、沖縄へと演奏会も兼ねた卒業旅行に赴き、そこで久美子と恋バナを繰り広げる真由に、良かったねという言葉を贈りたくなる。TVアニメの方の真由にも、同じような未来がもたらされて欲しいと思えてくる。

 『北宇治高校吹奏楽部のみんなの話』の読みどころは、もちろんそれだけではない。「新・幹部役職会議」と「旧・幹部役職会議」の2編で、久美子たちの次の代の部長や副部長、そしてドラムメジャーが決定する。誰になったかは読んでのお楽しみとして、決まってみれば納得の布陣といった印象を抱くこと請け負いだ。

 「○の中身はなんだろな」も面白い。久美子たちが3年生になり、新1年生として釜屋すずめや上石弥生、針谷佳穂が加わった低音パートが懇親会を開くことになり、2年生の鈴木美玲の家に集まってたこ焼きパーティーを繰り広げる。原作では『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』(宝島社文庫)、アニメでは『劇場版 響け!ユーフォニアム ~誓いのフィナーレ~』の中で練習して上手くなることだけにこだわっていた美玲が、そうしたレクリエーションに率先して加わっていることも意外なら、騒ぐ鈴木さつきや1年生たちに冷静に突っ込みをいれている姿もおかしく、親近感がグンと増す。

 卒業生への目配りもしっかりある。大学生になった吉川優子、中川夏紀、傘木希美、鎧塚みぞれの4人が車で旅行にでかける「ドライブ」というエピソードでは、優子の変わらない面倒見の良さが発揮されていたり、みぞれが音大で世間から隔絶された日々を送っているようで、意外な社会との繋がりを得ていたことに他の3人が驚いたりして、久美子たちとは違ったカルテットとしての楽しさを見せてくれる。

 フィナーレとなる「~閉幕・パストラーレ~」では、次の北宇治を担う2人の後輩に、久美子と真由が2人でプレゼントを贈り、後を託すストーリーがつづられる。長く続いてきたシリーズの本当の終わりといった雰囲気があって泣かされそうになるが、そこに麗奈ではなく真由がいることに、決して行きずりのキャラクターにはしないといった意識も感じられて嬉しくなる。

 もしもこの後、未来の北宇治のストーリーが紡がれるのなら、シリーズに登場したメンバーが誰ひとり欠けることなく登場して、旧交を温めてほしい。そんな奇蹟を願いたくなる1冊だ。

 

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