【連載】速水健朗のこれはニュースではない:リュック・ベッソンからの手紙

騙される側と騙す側の関係性は複雑

 僕らの事業は、他社に二束三文で売却されることになって、皆、転職したり、本社に戻ったり、部署メンバーはみなバラバラになった。で、そのXは、うまく転職していたが、10年くらいあとに逮捕された。仮想空間ゲーム「セカンドライフ」の土地権利の売買に関連した事件だ。

 そのときに、当時の部長がFacebookで、まさか彼がそんなことをするなんて信じられない。今でもXとは友達だと書いていた。腰を抜かしそうになった。なぜなら僕ら現場は、彼がそのうち大きな問題を起こすだろうって思っていたから。Xが逮捕されたときは、何人かと連絡を取り合って「やっぱりね」と言い合った。

 僕ら現場は、彼の持ってきた大口案件も、某ハリウッドの有名シリーズに彼が関わっていたことも、リュック・ベッソンからの祝辞も全部端から存在しなかったのだと知っている。だが、部長だけがまだそのすべてを信じている。

 この話は、大谷翔平と水原通訳の話から始まった。「彼が僕の口座からお金を盗み、周りの人たちにウソをついていた」という大谷の会見での台詞は、弁護士に確認をとった上で彼が発したものなのだろう。この台詞自体にはなんのドラマ性もない。だが、大谷がこれを棒読みするに至る経緯にあれこれ想像を巡らすと、そこにはドラマがある。僕が知っているのは、騙される側と騙す側の関係性は複雑なのだということ。リュック・ベッソンなら、この意見に同意してくれるだろうか。

p.s.
話としては、一度オチを付けたあとになるが、この部署解体のときに起きたときの僕の置かれた立場の話にも触れておく。僕以外のメンバーは、部署の解体とともに売却先に移籍したり、元の部署に戻ったが、僕だけがなぜか宙に浮き契約が切られてしまう。そして、その後、法務部とひと悶着あった。件のサービスは、二束三文で売却したと書いた。相手は日本を代表する超大手企業である。額は知りようもない。先方はサービス名とドメインの使用権を手に入れ、スタッフの一部を引き取ろうとした。だが肝心のドメインは、僕が個人で所有し管理しているものだった。法務部は真っ青になったはず。いや、売却に動いていた部門が真っ青になって、僕のところに法務部がやってきたという感じだったのか。僕がこのドメインを取得したのは、単に手続きを代行したようなもの。ちなみにサービス名の発案者も僕だし、取得時点ではまだサービスに正式なゴーサインは出ていない。仮に抑えておいた程度のものだった。ただ僕個人でドメインを取得するよう入れ知恵したのは、実は件のXだ。その意味では、僕とXは共犯関係にあったともいえる。僕はこのドメインを握りつぶすのも自由。クビになった会社に義理立てをすることもない。ただ愛着のある会社ともめるのも、法律の専門家集団と個人で闘うのもやっかいそうだったので、それなりの額でゆずることで同意した。額は一応、しゃべらないでおくが秘密というわけでもない。誰かに聞かれたら、素直に答える。公証役場に行ったのは、あれが最初で最後だ。いまのところ。

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