『感応グラン=ギニョル』の先へーー空木春宵『感傷ファンタスマゴリィ』が創り上げる痛みの世界

 「終景累ヶ辻」は、幾つかの古典怪談とマルチバースを融合させたユリークな作品。細部を変えながら繰り返される悲劇が、効果的に使われている。なおタイトルは、「真景累ヶ淵」のもじりだが、さらに〝累〟が〝重ね〟のもじりにもなっているのだろう。言葉にこだわる作者らしいお遊びだ。

 ラストの「ウィッチクラフト≠マレフィキウム」は、インターネットのVR空間で、女性の権利を主張する「魔女」を狩る〈騎士団〉の行動が描かれる。それと並行して、〈魔女たちの魔女〉と呼ばれる魔女と、魔女の活動を取材しにきたウェブメディア記者とのやり取りも描かれる。魔女のアバターを処刑する場面は、やはりグロテスクだが、正義に酔った人に限度はない。かつての魔女狩りと一緒だ。いうまでもなく、ここで扱われている女性差別は、別の差別へと敷衍することができる。私たちの誰もが、無関係ではいられない。きわめて現代的かつ根源的な問題が提示されているのだ。それだけに、最後に作者が差し出す小さな希望が尊いのである。

 単なる娯楽として消費するには歯ごたえがありすぎるが、そこに空木作品の魅力がある。春宵〝一読〟値千金。作者が次々と創り上げた痛い世界を、ひとりでも多くの人に知ってもらいたいのである。

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