「歌舞伎町はSNSによって熱いコンテンツになってしまった」 佐々木チワワが語る、コロナ前後の歌舞伎町の変化
歌舞伎町の社会学を研究する現役女子大生・佐々木チワワ氏による『ホスト!立ちんぼ!トー横! オーバードーズな人たち ~慶應女子大生が歌舞伎町で暮らした700日間~』(講談社)が刊行された。本書は、著者の佐々木氏が写真週刊誌『FRIDAY(フライデー)』(講談社)に連載中の『令和4年、歌舞伎町は今……』を書籍化したもの。自らが歌舞伎町にハマりホストに大金をつぎ込んだという佐々木氏にしか描けない“ディープな歌舞伎町”が生々しく記されている。
今回リアルサウンドブックでは、佐々木氏にインタビューを実施。『オーバードーズな人たち』制作の経緯やSNSの普及による水商売・風俗業界の変化について赤裸々に語ってもらった。(Nana Numoto)
SNSにより歌舞伎町がキャッチーな場所に
――本書には2022年1月から2023年11月までの約2年間の歌舞伎町の様子が綴られています。改めて、あの町がどのように変化してきたかを教えてください。
佐々木チワワ(以下、佐々木):歌舞伎町はコロナの前後で大きく変わっています。それこそ2020年の東横や歌舞伎町は、“子ども”と“お金の絡んだおじさん”と“女の子”だらけで、まともな社会人がほとんどいない状況でした。コロナが明けてからは徐々に人が戻り、外国人もたくさん増え、2023年頭にはインバウンド向けの歌舞伎町タワーが立って……。変化が目まぐるしい数年間だったと思います。
中でもホスト文化は、エンタメとして取り上げられ、ROLAND(ローランド)さんのような有名人が出てくるようにもなりました。そして今はホスト新法で揉めている。ここまで歌舞伎町という名称がニュースに出てくる時代はなかったのではないかと思います。
――確かに、以前は私も歌舞伎町のことはこれほど耳にしませんでした。
佐々木:もともと日本人は応援文化が好きだと思いますが、今はそれがSNSによってより身近になっていますね。プロセスエコノミー的に、まだ売れていないキャバ嬢やホストが売れるまでを追いかけたい人が増えているように思います。キャバクラもホストも、それこそ本書に書いてあるように枕営業なしには成立しない部分もあるし、性的に見られる仕事なのは事実です。
それにも関わらず、その部分をエンタメに寄せることで隠して、キラキラさせてしまっている側面はあると思いますね。そのしわ寄せが今後来るのではないかと思います。キャバ嬢に憧れる高校生もいますが、ランウェイをキャバ嬢が歩いていることに私自身は違和感を覚えてしまいます。水商売のラインというものが曖昧になってきていて、インフルエンサーと水商売が近くなったからこそ起きている現象だと感じますね。
――2024年に近づくに連れて、問題はより浮き彫りになってきたと感じますか?
佐々木:根底は変わっていないのだけれど、SNSにより歌舞伎町が身近な存在になったことで、良くも悪くもキャッチーな場所になってしまいました。私たちメディアの人間がキャッチーな言葉を使っていることもありますが、歌舞伎町のイメージがかなりライトになり、それこそエンタメのネタとして使われることもあって、シンプルに熱いコンテンツになってしまったというのが2024年の所感ですね。
嫌なこと、嬉しいことがあった時の繁華街の魔力はすごい
――なるほど、ありがとうございます。この本の内容に関して私自身は、どちらかというと新しく知ることのほうが多かったです。佐々木さんは、どんな人たちにこの本が届いてほしいと思いますか。
佐々木:元々『FRIDAY(フライデー)』(講談社)で連載していたものを書籍にしていますが、『FRIDAY』は歌舞伎町に入り浸っている人たちが読むような媒体ではありません。ですから、歌舞伎町を知らない方が読むことでこの世界を知ってほしいと思っていました。自分は関係ないと思っている人たちが、“やばい”で食いついた中に「こんなことが自分にもあるかも」などと気づいてもらえたらすごく嬉しいですね。
――歌舞伎町にいないからといって、全く関係ない話ではないですよね。
佐々木:きっかけがあれば誰しもが歌舞伎町にハマってもおかしくないと思っています。もしかしたら大恋愛の末に彼氏にフラれ、やけになって酒を飲みに行く先が歌舞伎町かもしれません。嫌なこと、嬉しいことがあった時の繁華街の魔力はすごいですからね。あの町は誰にでも優しくしてくれるので、精神的に不安定だったりするとその優しさに絡めとられてしまうこともあると思います。
――佐々木さん自身が歌舞伎町の方との交流もある中で、こうして俯瞰から書くことに抵抗はありませんでしたか。書かないでほしいと言われたりしませんでしたか?
佐々木:書けない内容で面白い話を聞くことも、もちろんゼロではありません。でも基本的には私がこういう仕事をしていることを知った上で喋ってくれているので、飲み屋での会話を文章にして書いているという感覚が強いです。ただ、書籍にするなら絶対にこの表現を変えてほしいとか、ここは消したほうがいいといった気の使い方はしました。当事者の目が届いたときに不快になる可能性があるものは極力削っています。
――こういった社会問題を綴った本には、売春という行為自体に否定的だったり、被害者としての側面をことさら強調するものも多い中、本書は当事者との目線が近いことがとても印象的でした。
佐々木:私は、なんで身体を売ってはいけないかと問われても簡単には答えを出せません。だから、それを一方的に「可哀想」とか「良くない」と言ってしまうのは違うのかなと。実はこれは校閲者さんにかなりお手数をおかけして出た書籍なんです。私の主張としては、「身体」と「お金」と女の子の「子」をカタカナで書かないでほしい。週刊誌などではいろいろな理由から「カラダ」、「カネ」、「あのコ」などと書くこともあるのですが、普通は「身体」だけれど売っているのは「カラダ」というようにいろんな意味を込められてしまうんですよね。
私も連載の段階では週刊誌の書き方に合わせて書いてはいたのですが、私のニュアンス的にそこまで「カラダ」とカタカナにして目立たせるほどのものでもないと思いました。ですから本書では、ただの肉体労働という意味で「身体」としています。ただのお金なのに、わざわざ「カネ」みたいにするのは嫌だというように、表現の細かいところにはすごく気をつけていました。
――それがあったからこそ、とてもフラットな目線に感じられたのかもしれませんね。
佐々木:週刊誌だと「きん」と誤読しないために全部「カネ」表記なんですが。書籍だとその表現は嫌だなと思って一律「金」にしてもらいました。当事者のセリフとかはできる限りそのままのニュアンスが伝わることを意識しています。
――風俗とSNSの結びつき、歌舞伎町とSNSの結びつきは、「頂き女子りりちゃん」の件もあって余計に気になる部分でした。やはりSNSから歌舞伎町の新たなカルチャーや稼ぎ方が広がっていくのでしょうか。
佐々木:ホストクラブといえば、もともとクローズドの空間の中で1位が決まり、あの狭い箱の中でお姫様になるというゲームだったんです。そこにSNSでの活動が増え、スカウトだとか、出会い系サイトや交際クラブのアフィリエイトとかがくっついてきたのが現状です。SNSによって、誰でも簡単に身体を売れるし、そういう仕事につくことができるようになりました。Xの上では綺麗事しか書かないし、そもそもアカウントの中身はネカマ(インターネット上で女性のように振舞う男性)のスカウトというケースがめちゃくちゃ多い。
他にも情報が商材化されており、それを買ってしまうこともありますね。だから情報弱者の女の子はホストから搾取されている以上に、スカウトとか同僚の女の子から搾取されたりしています。さらに、ホストといえばお店に来てもらって接客をしてお金を使ってもらっていたのが、今や配信の投げ銭でシャンパンタワー分のお金が集まるというように。そんな風にホスト自体の働き方も変わってきています。今が転換期にはなっていますね。