有機野菜、添加物、うま味調味料……誤解が多い食の用語は? 『食の選び方大全』著者・あるとむインタビュー
意外と知らない、食の業界用語
――チョコレートと準チョコレートなど、見たことはあるけれど深くは知らなかった用語の説明まで、親切に加えられているのが本書の魅力だと思いました。
あるとむ:販売する側にとって当たり前の知識を、お客さんは知らないことが多いんです。SNS上でも間違って解釈されているし、専門家でも知らないで使っている人もいます。担当編集者もほとんど知らない様子でしたが、だからこそ初歩的なところから説明して、初めての人にも手に取ってもらいやすい本にできたと思います。
――お恥ずかしいことに、私も全然知りませんでした(笑)。なかでも、誤解が多い用語は何でしょうか。
あるとむ:やはり“有機”ですね。有機野菜って、第三者機関で承認をとったものしか名乗れないんですよ。そんな有機野菜ですが、国の管理の中で認められたものに限り、農薬の使用が許可されています。
――有機野菜って、無農薬じゃないんですか!?
あるとむ:はい。そのことを知った人は、「ぜんぜん有機じゃないじゃん!」と言いますが、一方で、“自然栽培”の方が怖いと指摘する人もいます。自然栽培は公的な検査機関による認証がないので、ちゃんとした検査が確立されていません。有機野菜は栽培の履歴も事細かにチェックされていて、3年間遡って認可外の農薬を使ってはいけませんし、用具などにも農薬や化学肥料の飛散・混入がないことが条件とされているなど、厳しい基準があります。これだけの規則を守っている生産者の努力を知ると、有機の価値を再認識する人もいるのではないでしょうか。だから、僕は生産者のもとを訪問し、現場で見たことをお客さんに伝えるように心がけているのです。
外国産のものでも、いいものはいい
――極端な“国産”信仰をする人も見かけます。
あるとむ:国産でも外国産でも、いいものはいいと僕は思うんです。国産を神格化しすぎるのはどうでしょうか。伝統を守るのもいいのですが、外国にも素晴らしいものがあります。現代はグローバル社会なので、いいものを取り入れるべきだと思うんですよ。他にも、生産者が外国でいいものを発見し、日本人の味に合うように加工して提供するのも素晴らしい知恵ですからね。
――食に対する関心は、日本と海外では異なるのでしょうか。
あるとむ:イギリスで考案されたフードマイレージという考え方があります。食べ物が生産地から届くまでにどれだけ地球環境に負荷がかかっているかを示す数値ですが、日本はこれが世界1位で、多くの食材を輸入に頼っていることがわかります。輸送距離が長いほど、多くのエネルギーを消費するので、二酸化炭素の排出量も増加し、環境負荷が高いといわれています。ヨーロッパはこれを減らすことも重視しています。特にドイツの人たちは、有機食品を選ぶ理由として、自分の健康のためというより、動物や植物を守りたいという環境への配慮を挙げる方が多いようです。
――この本を読んで、食に興味を持った人にまず実践してほしいことはありますか。
あるとむ:加工食品ばかり食べているようであれば、自分で料理をしてみてはいかがでしょうか。ちょっといい調味料を用意して、みそ汁をつくってみたりして、手作りの良さを感じて欲しいです。日常の食の質を向上させたら、自然に健康になっていくと思います。消費者が食品を選ぶ基準の一つが値段ですが、有機栽培の食品は高いですよね。その価格の理由も、食品について知識を深めるとわかってきますし、生産者を応援したいという気持ちも芽生えてきます。
パン屋のおばあさんのエピソードに感激
――『食の選び方大全』の執筆に当たり、あるとむさんは生産者のもとを回ったりと、取材を行ったそうですね。取材中の興味深いエピソードなどはございますか。
あるとむ:ある老舗のパン屋さんに行ったとき、白砂糖をたっぷり使っている、まるで昭和のような菓子パンが売ってありました。現代の主流である。ヘルシー志向のパンとは対極に位置します。店のおばあさんに、「どんなことを思いながら、このパンを作っているんですか」と聞いたら、昔、娘さんにあまりパンを食べさせてあげられなくて、自分で作った砂糖たっぷりのパンを食べさせたら、凄く喜んでもらえたそうなんですね。その想いを大切にして、今もパンを焼いているのだそうです。
――感動的なエピソードですね。
あるとむ:食べ物で一番大事な、作り手の思いを感じ、大切なことを教えてもらったと思いました。胸が熱くなりましたよ。どんな食べ物にでも、役割があるんだなと。栄養素や効果効能、安全性などの視点だけでは測れない、食べ物が持つ役割を忘れてはいけないと思いました。
――最後に、この記事を読んだ読者にメッセージをいただけますか。
あるとむ:食べ物にこだわりを持ってこなかった人には、作り手がどんな思いで食べ物を作っているのか、考える機会をもっていただきたいと思います。食べ物に気を使いすぎてきた人は、もしかすると疲れている人も多いかもしれません。そういうときは原点に立ち返るべきです。食べ物は身体をつくるだけのものではなく、食べて幸せになることも本質であると、思い出していただきたいですね。
■書籍情報
『食の選び方大全』
著者:あるとむ
イラスト:浜竹睦子
価格:¥2,420
発売日:2024年3月5日
出版社:サンクチュアリ出版