手塚治虫、生成AI『ブラック・ジャック』が話題の中、今読んでおきたいSF作品といえば?
手塚治虫の不朽の名作である『ブラック・ジャック』。この新作がAIを使って生み出したらどうなるのか。秋田書店による週刊少年マンガ誌「週刊少年チャンピオン」52号で、AIと人間による『ブラック・ジャック』の新作の読み切りが登場。
多くの漫画好きだけではなく話題となっていた。生成AIの台頭は著しいものがあるが、手塚治虫にあらためてフォーカスが当たったことはいうまでないだろう。そこで今、手塚治虫として読んでおきたい作品は何があるのだろうか。
おすすめしたいのは『メタモルフォーゼ オリジナル版』である。手塚漫画の復刻や知られざる名作の書籍化は各社から定期的に行われているが、今回は白眉といえる。本作『メタモルフォーゼ』は1976年に『月刊少年マガジン』に掲載された作品。手塚がライフワークとして漫画やアニメでたびたび表現されてきた“変身”がテーマの連作6編である。
本作のポイントは、雑誌連載時のまま復刻されるということだ。それの何が注目に値するのか、ピンとこない読者も多いかもしれない。実は、手塚は雑誌に掲載された作品が単行本に収録される際に、大幅に加筆・修正・手直しをする作家として有名なのだ。『メタモルフォーゼ』はこれまで、扉絵を含む雑誌掲載時のままで出版されたことがなかった。そのため、オリジナルの状態で単行本化されたのは今回が初めてとなるため、ファン垂涎の一冊になっている。
さて、中でも注目すべき点は、1980年に『ヤングマガジン』に短期連載された『こじき姫ルンペネラ』が併録されていることである。一部の手塚ファンによっては、むしろこちらが気になったかもしれない。
『こじき姫ルンペネラ』は、手塚が晩年に青年誌に連載をした大人向けの漫画である。ストーリーは映画オタクの予備校生のもとに突然ランプの精が転がり込んでくるというもので、現代の漫画でもおなじみの日常系のSF作品だ。そして、ヒロインのランプの精がとにかくかわいいのだ。
手塚が描く女の子は、現代のオタク文化に通じるほどかわいらしく、キャラクターデザインにも古さを感じさせないが、このランプの精はその筆頭と言えるだろう。しかも、当時の少女ブームを反映しているのか、なかなか際どいシーンがたくさんあり、今読んでもドキドキしてくる作品だ。絵も晩年の手塚ということもあって洗練されているため、現代の漫画読者でも楽しめるはずである。
そして、本作品も手塚が生前に大幅な描き直しを加えている。ぜひ、『手塚治虫漫画全集』に収録されたバージョンと比較してほしい。連載時とストーリーがオチを含めて別物になっているだけでなく、ランプの精の髪型、顔に至るまで、キャラクターデザインが大きく変わっているのだ。同じ世界観でヒロインのかわらしさを二度堪能できる、ある意味おいしい漫画である。既刊をすでに読んだことがあるという人も、ぜひ今回の書籍を入手していただきたい。
手塚治虫が描く女の子のかわいらしさは非常に定評があり、その先見性ゆえにたびたびSNSでバズることがある。とりわけ、1980年代の手塚作品はかわいいヒロインが盛りだくさんだ。
代表的な作品は1982年から『週刊少年チャンピオン』で連載されたSF漫画『プライム・ローズ』だが、主人公のエミヤが赤面しながら自ら服を脱ぎ、上半身が露わになる場面がある。また、エミヤのキャラクターデザインは、描き直されたバージョンの『こじき姫ルンペネラ』のランプの精に雰囲気がよく似ている。
アニメ『けものフレンズ』が流行った時に注目されたのが、『さらばアーリィ』(1981年発表)である。けものフレンズに登場するサーバルちゃんを思わせる、獣耳のヒロインが登場する。また、『野性時代』の1986年1月号から連載された『火の鳥』太陽編のヒロイン、マリモもまた獣耳でかわいいキャラクターデザインで、手塚ヒロインに萌えまくる人が続出した。当時、すでに50歳を超えていた手塚が飽くなき挑戦を続けていたことがわかる。
かわいらしいヒロイン、日常系のSFと、1980年代の手塚のエッセンスが存分に楽しめる『こじき姫ルンペネラ』は間違いなく名作だ。個人的にはアニメ化してほしい手塚作品のひとつである。この機会に、健全で、平和で、子どもも読める素晴らしい漫画という手塚のイメージがガラッと変わる奇跡の名作を堪能してみてはいかがだろうか。