『PSYCHO-PASS サイコパス』10周年記念展開催や記念映画のノベライズ刊行で気になる“その先”

 2012年から放送が始まったアニメシリーズ『PSYCHO-PASS サイコパス』の10周年プロジェクトとして制作された映画『PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』(2023年)の公式ノベライズが、脚本を手がけた深見真の執筆で2月9日に刊行された。東京・上野松坂屋でも『PSYCHO-PASS サイコパス 10周年記念展覧会 CHROMESTHESIA SCOPE』が3月6日まで開催中。10年を超えて衰えないシリーズの魅力や行方を探る。

 映像を思い出させてくれることと、映像の内側を感じさせてくれること。映像作品のノベライズに期待することが2つあるとしたら、深見真による『小説 劇場版PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』(KADOKAWA)は、どちらもしっかりと満たしてくれる。

 人間に関するあらゆるデータを把握して、その人間の心理状態から将来的な行動の予測までを行う「シビュラシステム」によって管理され監視された社会。「シビュラシステム」の判定を元に、潜在的な犯罪者を摘発する仕事をしている公安局刑事課の活動を描いてきた『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズで、現時点の最新作が2023年5月2公開の映画『PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』だ。

 2019年10月から放送されたTVシリーズの3期で、1期からメインキャラクターとして登場していた公安局刑事課監視官の常守朱が、とてつもない事件を起こして収監されていたことに驚かされた。『PROVIDENCE』に描かれるのはその事件へと至る展開で、「シビュラシステム」が法を超越した存在になっていこうとする動きに抗う人間の強い意志が示される。

 映画の冒頭で、法律を廃止しようとする政府の動きに対し、朱が法律の必要性を訴える描写がある。そして、犯罪組織「ピースブレイカー」の企みを阻止した経た後で朱は、自分の主張を裏付けるような行動に出る。監視官の地位を失うどころか凶悪犯として収監されることになった行動の理由は映画からも伺えるが、小説版はそこに朱の思考が添えられていて、ある信念を持っての行動だったことが分かる。

 「――それでも、死んでいったみんなのために、やるしかなかったんだ。」。自らの行動を振り返る朱の言葉どおり、朱の周りでは過去に大勢の仲間や知人や恩人が命を失っていった。『PROVIDENCE』でも犯罪心理学の権威として、朱に助言を与えてきた雑賀譲二が退場している。小説版はその場面でも雑賀の内心が書かれていて、朱に事後を託そうとする思いに触れられる。

 朱が公安局に入るはるか以前から活躍し、暗躍もしてきた慎導篤志が、第3期で主人公の1人となる息子の慎導灼に何も告げず、やはり3期で主人公となる炯・ミハイル・イグナトフの結婚式の直後に自ら退場を決断したのかも、小説版では言葉によって補足されている。「このタイミングしかない。ここで死ぬことが、灼たちへの最大のメッセージになる」。その予言どおり、灼と炯は公安局の監視官となり、3期で「ビフロスト」という「死ジュラシステム」ですら把握できていなかったシステムにたどり着き、白日の下にさらす。

 監視官の朱がいて、執行官の狡噛慎也が犯罪を追い首謀者を摘発しようとする中で、完璧に見えた「シビュラシステム」の課題が浮かび上がり、狡噛が海外に逃亡した後もひとり朱が探求を続けて来たTVシリーズの1期と2期、そして、朱が海外で狡噛慎也と再開する『劇場版PSYCHO-PASS サイコパス』を経て、3期では主人公が一変した。

 断絶があるようにも見えたが、朱による「シビュラシステム」との対決があり、一方で「シビュラシステム」の進化というテーマがあったことが、『PROVIDENCE』で描かれた。ここから3期を経て『PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR』へと進んでいけば、シリーズへの理解も深まるだろう。

 3期については冲方丁、深見真とともに脚本を手がけた吉上亮が、『PSYCHO-PASS サイコパス 3 A』『B』『C』の3部作でノベライズを行っている。『FIRST INSPECTOR』については華南恋がノベライズを執筆している。これらを読み返すことで、それでは「次」はどうなるのかといった興味がわいてくる。

 展覧会『CHROMESTHESIA SCOPE』は、過去のシリーズが映像やパネルで順に振り返られていて、懐かしい気持ちになれる。10周年を記念する映画が公開され、ノベライズも出て一段落した感も漂うが、誰もこれで『PSYCHO-PASS シリーズ』が終わるとは思っていない。朱の帰還があり、「シビュラシステム」の進化があった『FIRST INSPECTOR』のラストを受け継ぐ展開が、きっとあるはずだと願っている。

 浮かぶのは「シビュラシステム」との全面的な対決だが、テロリストのような行動に朱が踏み込むとは考えにくい。灼と炯が第3期から引き続き監視官として残るとしても、灼の父親や炯の兄の死の真相は『PROVIDENCE』にすでに描かれた。さらに新たな主人公を設定し、時代も変えて最後の対決が描かれていくことになるのか。気になるところだ。

 なにしろ現在は、AIが判断の相当部分を担う可能性が10年前よりも高まっている。そこに人を裁く機能も乗せてしまうとは今の段階では考えづらいが、仮にそうした方向へと世論が流れ始めた時、それで良いのかを問い直す上で、『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズに描かれた近未来の状況と、その中で戦ったり迷ったり悩んだり決断している人たちの描写が、大いに参考になる。映像を見直しノベライズを読んで、これから先を想像してみるのも悪くない。

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