瀬尾まいこ×上白石萌音『夜明けのすべて』対談 「魅力的な女性像になったのは上白石さんが演じたから」

瀬尾まいこ『夜明けのすべて』

 作家・瀬尾まいこによる『夜明けのすべて』が、松村北斗(SixTONES)と上白石萌音のダブル主演で実写映画化。それぞれに生きづらさを抱える男女が手を取り合い、特別な関係を築いていくさまを描いた作品だ。

 そんな本作でPMS(月経前症候群)の症状に苦しむ“藤沢さん”を演じた上白石と、原作者である瀬尾の対談を行った。上白石はこの小説をどのように読み、自身が演じるキャラクターをどう捉えたのか。そして、三宅唱監督の手により映画として立ち上がった世界を生きる上白石の姿を、藤沢さんたちの生みの親である瀬尾はどう受け止めたのだろうか。(折田侑駿)

安心して苦しめた──上白石萌音

 この社会にはさまざまな生きづらさを抱える人たちがいる。このページにたどり着いたあなたもそうかもしれない。けれども特別な誰かとの出会いによって、少しだけ呼吸がしやすくなったりもするものだ。

 本作では、パニック障害を抱える青年・山添くんと、月に一度やってくるPMS(月経前症候群)が原因で生きづらさを抱える女性・藤沢さんに、瀬尾の優しく温かな眼差しが注がれている。

──上白石さんは『夜明けのすべて』を読んでみてどのような印象を抱きましたか?

上白石:この小説を端的に説明するならば、パニック障害を抱える男性とPMSに悩む女性の、友人関係でもなければ恋人関係でもない、特別な関係を描いたものです。でも実際に読み進めていくと、山添くんと藤沢さんが苦しんでいる原因は、それぞれのキャラクターのひとつの要素でしかないことに気がつきました。言葉にするのが難しいのですが、パニック発作もPMSの症状も、それぞれの日常の一部として描かれている。だから押し付けがましさのようなものがないんです。苦しみながらもみんなが自然体で生きていて、読んでいるうちに心がほぐされていくような感覚になりました。なんて温かで素敵なお話なんだろう。なので私も自然体で藤沢さんを演じられたらと思っていました。

瀬尾:上白石さんはこうやって自分の気持ちを素直に言語化できるところがすごいですよね。綺麗事じゃなくて、本当にこの作品を大切に読んでくださったことが伝わってくる。すごく嬉しいです。本作の映画化の企画が立ち上がったとき、藤沢さんの役はぜひとも上白石さんに演じてほしいと思っていました。彼女はスターではあるけれど、親しみやすさをずっと感じていたんです。キラキラしている姿も素敵ですが、私が描くごく普通の物語の世界にも溶け込めるのだろうと。藤沢さんとして生きてくださってありがとうございます。

──瀬尾先生は上白石さんの演技をご覧になっていかがでしたか?

瀬尾:彼女の姿を見ていて、何度も胸が詰まりました。私はPMSではなくパニック障害なのですが、自分ではどうすることもできない心身の変化に苦しむ様子など、すごく分かるんです。もちろん、演技のことは詳しくありません。でもあの苦しさは分かる。同性ということもあって、藤沢さんの心が乱れる様子はつらかったです。でもそのいっぽうで、彼女が何かを見つけてホッとするさまには私までホッとしたり。もとは自分が描いた話ではありますが、上白石さんが演じることによって、より共感できる藤沢さん像が生まれています。

上白石:やっぱりPMSの症状が出るシーンは怖かったですね。私自身、自分の制御を超えたところにまで踏み込まなければならないのだろうと思っていましたから。なので脚本を読んだ時点からドキドキしていたのですが、三宅監督が本当に丁寧に寄り添ってくださって。何度も何度もリハーサルを繰り返して、本番を迎える頃には怖さを感じない状態にまで導いてくださいました。メンタル面のケアをとても大切にする監督ですね。山添くんを演じる松村さんに対しても同じ。深くて大きな愛情と熱量で私たちに向き合ってくださった。だから私たちは安心して苦しめたんです。

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