翻訳ミステリファン驚倒! 圧巻の研究書『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション』

 その他にも、【ウィークエンド・ブックス】の項で、終末SFの古典『渚にて 人類最後の日』で知られるネヴィル・シュートの『失われた虹とバラ』(この本の作者名は、ネイビル・シュート)に触れ、「【ウィークエンド・ブックス】の中で、何を措いても復刊して欲しい逸品です」といっているのに、激しく同意。あるいは【海洋冒険小説シリーズ】で出た、チャールズ・ウィリアムズの海洋サスペンス『スコーピオン暗礁』の面白さを紹介しながら、他の作品(日本では、フランソワ・トリュフォー監督の遺作『日曜日が待ち遠しい!』の原作である『土曜を逃げろ』が一番有名だろう)も含めて、「厚さも濃度も手頃な小味なサスペンスとして強くお薦めします」と称揚している。これまた激しく同意し、数十年ぶりに『スコーピオン暗礁』を再読してしまった。面白かった。

 【シリーズ 百年の物語】で出た、マーク・マクシェーンの『雨の午後の降霊術』(文庫化に際して『雨の午後の降霊会』と改題)と、デイヴィス・グラッブの『狩人の夜』(両作とも映画化されているが、原作と同じく、どちらも傑作である)の衝撃とか、書きたいことはまだまだあるが、きりがないのでこれくらいにしておこう。

 ところで本書を読んでいて、著者も言及している植草甚一の『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』のことが、しきりに思い出された。【クライム・クラブ】で刊行された作品の解説が収録されている名著である。読んだのは中学生か高校生の頃だ。そのときすでに【クライム・クラブ】は絶版になっており、取り上げられている作品で読めるものはわずかであった。しかも植草のセレクトに癖があり、【クライム・クラブ】以外で翻訳のない作家も多い(『消えた犠牲』のベルトン・コップのように、現在では他の作品が読めるようになった作家もいる。いい時代になったものだ)。つまり作品の内容を知らず、作家の情報もないまま、解説だけを読んでいたのである。だから理解できない部分も多かった。

 それなのにこれが、メチャクチャに面白い。もちろん植草の語り口の素晴らしさもあるのだが、一番の理由は、自分の知らないところに宝の山があると気づき、夢中になったからだろう。それと同じ高揚を、本書を読んでいて強く感じた。だから少しでも翻訳ミステリに興味のある人は、本書を手にしてもらいたい。そして、宝の山に続く扉を開いてほしいのである。

■書籍情報
『ミステリ・ライブラリ・インヴェスティゲーション 戦後翻訳ミステリ叢書探訪』
著者:川出正樹
価格:3,520円
発売日:2023年12月15日
出版社:東京創元社

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