話題の歌集『胎動短歌』、仕掛け人はバンドマン 辿り着いたのは「短歌」と「音楽」の共鳴性

たった三十一文字で広がる世界

——編集のこだわりについても教えてください。歌人、詩人、ラッパー、ミュージシャン……など、いろんな方が短歌を寄稿されているわけですが、オファーの基準はあるのでしょうか?

ikoma:基準というと生意気ですが、キャラが立っているかどうかは結構大事にしていますね。例えば、vol.3から参加してくださっている宮内元子さんは、水戸市植物公園の方なんです。植物のことを宮内さんの言葉で表現しているSNSがすごく魅力的で、短歌を書かれたことはなかったそうですが、面白そうだなと思ってオファーをさせていただきました。キャラが立っているだけで、自然と短歌にも個性が出てくるんですよね。

——プロアマ、有名無名問わず、いろんな方が寄稿されていながら、掲載はすべて作家の五十音順とシンプルです。全員の短歌を平等に並べているのには、何かこだわりがありますか?

ikoma:ただ単に、僕が本の編集に関して無知なだけです(笑)。最近になって、ようやく本の紙質にもいろいろな種類があることを知ったくらい素人なので、下手に僕が手を加えないほうがみなさんのキャラが立つと思っているんですよね。むしろ、凝った編集のアンソロジー的な歌集は、短歌界の人たちが意図を持ってやってくれるだろう! 俺がやることじゃないか! って感じです。すみません、特にこだわりがなくて(笑)。

最新刊『胎動短歌Collective vol.4』

——いえいえ(笑)。それでは改めて、ikomaさんが思う短歌の魅力を教えてください。

ikoma:たった三十一文字で世界が広がるところ、ですかね。短い言葉の連なりで、こんなにも想像力が掻き立てられるんだって。本当、すごい表現だと思います。僕みたいな読書が苦手な人間でも読み切ることができるし、短いからこそ暗唱しやすく、心の中にお守りのように仕舞い込んで持ち運ぶこともできるのもいいですよね。 

 三十一文字にまとめなきゃならない分、読み手が自由に解釈できる余白があるところも魅力的です。昨今の短歌ブームを作っているのは、短い文章がゆえにX(旧Twitter)との親和性が高いからだと思っているのですが、特にコロナ禍で外に出られず退屈だったとき、タイムラインに流れてくる響きの良い三十一文字に救われた人って結構いると思うんですよね。

——確かに、そうかもしれませんね。

ikoma:そういう意味では、僕なりに短歌の入り口になる機会をもっと増やしていきたいと思っていて。いちばんは短歌の野外フェスをやりたいんですよね。既に朗読会というイベントはあるものの、ちょっとハードルが高い感じがあるじゃないですか。僕も歌集から短歌に入ったわけではないですし、野外の開けたところで「フェス」と銘打ってイベントができたら、みんな軽いノリで集まりやすいんじゃないかなって。とはいえ、「やれそう」と思っても勢いで進めたら失敗するのは経験上分かっているので(笑)、もう少し企画を練っていきたいですね。

11月11日に開催された「文学フリマ東京37」の様子

書籍詳細

■「胎動短歌Collective vol.4」

【参加者(寄稿者)一覧】
伊波真人
岡野大嗣
荻原裕幸
尾崎世界観
カニエ・ナハ
金田冬一/おばけ
上篠翔
狐火
木下龍也
小坂井大輔
GOMESS
向坂くじら
鈴木晴香
高橋久美子
竹田ドッグイヤー
tanaka azusa
千種創一
千葉聡
寺嶋由芙
toron*
野口あや子
初谷むい
東直子
ひつじのあゆみ
平川綾真智
広瀬大志
文月悠光
フラワーしげる
堀田季何
穂村弘
枡野浩一
宮内元子
宮崎智之
村田活彦
和合亮一
ikoma
(50音順/敬称略)

【価格】2,000円(税抜)
【表紙・デザイン】竹田信弥(双子のライオン堂)
【編集】ikoma / 胎動LABEL

歌人、詩人、俳人、ミュージシャン、ラッパー、アイドル、ライター、書店員、ラジオパーソナリティー、画家、植物園の中の人まで全36組が参加、連作8首を寄稿。文学フリマ東京にて700部完売した『胎動短歌Collective』シリーズ最新刊。ジャンルを超えた「誌面上の短歌フェス」を楽しめる。

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