『SPY×FAMILY』豪華客船編 で議論再燃……「殺し屋は幸せになっていいのか」問題を考える

過去作では「罪に苦悩する殺し屋」の姿も

  遠藤の初連載作品は、『ジャンプSQ.』(集英社)に掲載された『TISTA』という漫画だった。この物語ではシスターミリティアと呼ばれる暗殺者の少女が主人公となっており、『SPY×FAMILY』とは正反対のダークな作風。使命のために大勢の人を手にかけた主人公が、その罪に激しく苦悩する様が描かれていた。

  設定的にはヨルとかなり近いが、『SPY×FAMILY』の場合は基本路線がコメディなので、あえて罪というテーマを避けているのだろう。ただ、いくつかの箇所では殺し屋が背負う業についてもしっかり触れられている。

  アニメのMISSION:33では、ヨルが人を大勢手にかけたことを皮肉られた際、「人に刃を向ける者は自らが向けられても文句は言えません。もちろん私も」という言葉を口に。その後、なぜ裏稼業を続けているのかと自問自答するシーンでは、家族を理不尽な犠牲に遭わせたくないという目的を胸に秘めていたことを自覚する。

そして「私の平穏はいらない」と言いきり、フォージャー家を離れたり、命を落としたりする未来を覚悟した上で、あらためて自身の手を血に染めていた。つまりヨルは罪に問われていないわけではなく、罪を自覚したうえで大切なものを守る決断をしているのではないだろうか。

さらにいえば、フォージャー家はそもそもロイドの任務のために作り上げられた、脆弱な関係に過ぎない。ヨルはまだ幸せな生活を手に入れてはおらず、“仮初めの家族”のなかで夢を見ているようなものだと言える。少なくとも現時点では、本編のなかでも「殺し屋が幸せになれるかどうか」は決まっていないのだ。

 フォージャー家はいつか本当の家族になれるのか、そしてヨルは裏稼業をこのまま続けるのか……。この先には一層スリルあふれる展開が待ち受けていそうだ。

※トップ画像:プチラマEX SPY×FAMILY おおきな箱入りSPY×FAMILY 3個入りBOX
©遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会

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