倉田真由美が語る、太宰治のだめんず的な魅力 「作品に惚れられるし、太宰自身にも妄想を乗っけられる」
あの文豪の名作が漫画で読める―― 累計400万部を突破した「まんがで読破」シリーズが装いも新たに創刊された。しかも、今回は巻末に著名人によるユニークすぎる解説がついており、文学の世界によりディープに迫ることができるのだ。
なかでも注目の一冊が、太宰治の不朽の名作『人間失格』である。もっとも太宰らしい文学作品といえるこの作品を推すのが、漫画家・倉田真由美氏だ。倉田氏は、代表作の『だめんずうぉ~か~』で、ダメな男、すなわち“だめんず”にハマる女性たちの姿を克明に描いてきた。
倉田は、『人間失格』を読み解くと、太宰の“だめんず”ぶり、そして、そんなだめんずを愛してやまない女性たちの姿が浮き彫りになってくると言う。太宰作品から「まんがで読破」シリーズの魅力まで、存分に語っていただいた。(山内貴範)
太宰治ファンの女性は元祖・サブカル女子?
――倉田真由美先生が太宰治の名著『人間失格』を読み、率直に感じたことはなんでしょうか。
倉田:“だめんず”って昔からいるんだなと思いましたね。だめんずにもいろんなパターンがあるけれど、太宰的なパターンの人は昔からいるし、今もいるんですよ。そして、そういうだめんずにハマる女性も、いつの時代も変わらず多いのです。
――太宰を好きになる女性って、どんなタイプの人でしょうか。
倉田:現代で言えば、サブカル女子のようなタイプだと思います。昔、リリー・フランキーさんやみうらじゅんさんが出ているイベントに出たことがあったんですが、リリーさんが出てきた瞬間、「キャー!」と黄色い歓声をあげる女子がいたの(笑)。ああ、サブカル女子って、これかと。ジャニーズやイケメン俳優が好きな女子はわかるけれど、リリーさんやみうらさんが好きな女子って、ちょっと路線が違うじゃない(笑)。
――太宰治も今でこそ近代文学の巨匠ですが、存命だった頃はイメージが違っていたでしょうね。相当な変わり者扱いされていたというか……。
倉田:今では太宰の名前だけが独り歩きしているけれど、当時は様相が違っていたでしょうね。太宰に「なんなの、あんな軽い男!」と思う人も絶対にいたはずだし、対して、そんな太宰にハマる女性もいたわけです。“太宰女子”は作品に惚れられるし、太宰自身にも妄想を乗っけられるんですよ。男性だとそうはいかないでしょ。男性が与謝野晶子さん萌えとか、聞いたことないですよね(笑)。
――太宰は存命中から破滅的な人生を送っていますが、なぜ女性は引き込まれるのでしょうか。
倉田:サブカル女子が男に惹かれるときって、その人の作品や名声に過剰なほど自分の恋心を乗っけてしまい、夢見がちになるんです。だからサブカル女子はイケメン役者のファンよりも遥かに夢見る少女だと思うし、現実感がない恋愛を好むのかもしれないね。
男性と女性では妄想力がまったく違う
――さすが、数多の女性にインタビューをしてきた倉田先生ですね。リアリティがあって、説得力がありすぎます。
倉田:実は、私も10代の頃にそういう妄想癖があったから、わかるんです。シャーロック=ホームズ、佐々木小次郎、『三国志』の曹操孟徳といった、小説の登場人物に惚れていたことがありましたからね。ときめきたいときは小説のページをめくって、キュンキュンしているわけ。
――ページを見ただけで、ドキドキできるんですか?
倉田:そうなのよ。そして、それができるのは女性だけ。男性は絶対できないと思うよ。そもそも、キュンキュンするのが性的なシーンじゃないから。佐々木小次郎が冷たくされているシーンとか、強気の曹操が慌てて敗走するシーンに萌えたりできるわけ。恋愛感情を抱いているから、細かい仕草とか行為に惹き込まれるんですよ。
――そういう感情は若い時ほど持ちやすいものなのでしょうか。
倉田:10代の頃は特に強くて、年齢を重ねると難しくなっていくと思います。ただ、私は少女漫画家を目指していたけれど、妄想を膨らませる力と画力が足りなかったから、リアルなエッセイ漫画にシフトしましたけれどね(笑)。少女漫画家って、妄想力と恋愛感情を動力にして漫画を描いているので、若い人ほど面白いものを描けるんですよ。だから、10~20代の多感な時期にデビューする人が多いんだと思います。