TOLAND VLOG・サムはなぜ『古事記』にハマったのか? 現代的な視点から見た奥深い魅力
名古屋・大須を拠点に活動する日本の歴史や世界各地の神話を深掘りするYouTuberのTOLAND VLOG。語り手のサムが、1年以上かけて作り上げた小説『古事記転生』が2023年6月29日に発売された。
物語の主人公は、仕事も人間関係もズタボロなバーテンダーのサム。ある日、サムは常連客とのトラブルに巻き込まれて命を落とすが、目覚めると『古事記』の世界でいじめられっ子の下っ端神様・ナムチとして転生していた――。
『古事記』と聞くとなんだか難しそう、そもそも日本史の教科書で単語を暗記した記憶しかないという人でも、一読すればその深淵な世界の魅力に浸かれる内容になっている。小説の見どころから、『古事記』や神話の面白さまでたっぷり語っていただいた。(山内貴範)
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神話系YouTuber、初の小説、初の書籍
――今回は本の出版おめでとうございます。まずは、出版に至った経緯から伺えますか。
サム:今回、このような本を出せたのは、ひとえにサンマーク出版の編集さんに繋げてくださった方のおかげです。文章を書くことは子どもの頃から好きでしたし、以前はバンドやお店、個人でもブログを書いていました。なので、活字で何か表現をしたいという気持ちは、ずっとありましたね。
――完成まで、足掛け1年かかったそうですね。
サム:1年の半分くらいは、書き出しで悩んでいたように思います(笑)。なにしろ、文章を書くリズムをつかんでいないので、何から始めたらいいのか、物語をどう進めていけばいいのかと悪戦苦闘の日々でした。これが編集の尾澤佑紀さんを待たせてしまった原因ですね。僕は書けるときと書けないときの差が大きくて、スラスラと書ける状況にもっていくのが苦労しました。
――YouTubeの動画撮影と並行しながらの執筆は大変だったと思います。頭の切り替えはどのようにされたのでしょうか。
サム:僕のYouTubeチャンネルでは、神話や歴史をひも解く性質上、面倒な調べものが多いんですよ。動画撮影の準備で頭がパンパンのときは、小説を書くモードに切り替わりません。ただ、忙しさを超えたランニングハイに似た状況になると、ふと文章が出てきたりする。あと、カフェに行って頭をからっぽにしていたときも、アイディアが浮かんだりしました。
古代神話にハマったきっかけ
――サムさんは神話系のYouTuberとして活躍されていますが、もともと、『古事記』などの古代神話はお好きだったのでしょうか。
サム:全然興味がなかったんですよ(笑)。転機が訪れたのは、インドに仲間たちと旅行したときですね。インド人のバラル君から、ヒンドゥー教の神・ガネーシャについてエピソードトークをしてもらって、面白いなと思ったのです。日本では宗教や神話の話となれば一歩ひいてしまうことがありますよね。でも、インドでは神々の絵があちこちに飾られていて、宗教的な雰囲気が濃いんですよ。
――インドの環境がサムさんの感性を刺激したのですね。
サム:僕はインドに行く途中、飛行機の乗り継ぎまで7時間くらい時間があったので、空港で本をランダムに何冊か買っていました。そこでなんと、『古事記』について解説された本をたまたま買っていたんです。そのときは『古事記』に興味はなくて、いろんなジャンルから一冊ずつ、ジャケ買いをした感覚ですね。そして、偶然は重なるもので、バラル君から日本の神話について聞かれたんです。
――それは凄いですね! しかし、サムさんは日本の神話についてお話しできたのでしょうか。
サム:僕、昔から漫画などの内容を要約するのは得意だったんです。バーの経営もやっていますが、自分が体験したことや好きな漫画や映画に共感してもらいたくて、内容を要約して楽しく話していました。そんなノリでインドの人たちに『古事記』の説明をしたら、ストーリーを面白がってもらえたのか、爆笑されたんですよ。僕もまさか、こんなに受けるなんて予想もしていなかった(笑)。
――日本神話の神様って変わり者が多いですし、サムさんの語り口は世界共通で支持されるんですね。
サム:僕は彼らの反応を見て、なんでこんなに面白い物語を日本人は知らないんだろう、と疑問に思いました。海外の人たちは自国の歴史や神話に詳しいのに、日本人は詳しい人はほとんどいないですよね。それはなぜだろう、というところから歴史に興味が出てきたんです。