『僕のヒーローアカデミア』オールマイト、笑顔で戦う意味ーー“個性”なき戦いが映すもの

 「私が来た」

 週刊少年ジャンプ(集英社)にて連載中の『僕のヒーローアカデミア』(以下、ヒロアカ)は、主人公・緑谷出久(以下、デク)がヒーローになるまでの物語であると同時に“みんな”の物語だ。そして雄英高校のクラスメイトや、社会の平和を守るプロヒーローたち……いわゆる“良い者”に限らず、“悪者”と呼ばれる敵(ヴィラン)のことについて語ることも欠かさない。

 作者・堀越耕平による、あらゆる登場人物への細かい目配せと構築が作品の最大の魅力と感じるが、その中でも主人公と並行して語られるキャラクターがオールマイトだ。彼は今(9月18日発売『週刊少年ジャンプ 2023年42号』時点)、宿敵AFO(オールフォーワン)と再戦している。

※本稿には『僕のヒーローアカデミア』のネタバレが記載されています。

A組の生徒たちへのリスペクト

 神野以来の(そして恐らく最後の)オールマイトとAFOの戦いの火蓋が斬られたのは第386話「I AM HERE」。長きにわたる戦友・塚内の制止をふりきってまでもAFOに立ち向かう彼に、以前のような力はない。そしてかつての相棒サー・ナイトアイの予言を思い出していた。

「敵と対峙し、言い表せないようもない程……凄惨な死を迎える!!」

 オールマイトは、ナイトアイが予言で見た敵が若年化したAFOであることに気づいていないこと、そしてここが自分の死に場所だと理解している。憎くて仕方ない自分を無視して死柄木弔の元へ行くことはないとわかったうえで、自らを餌に彼のヘイトを買って時間稼ぎをしなければいけない。しかし、“無個性”だからとただ黙って蹂躙される趣味は彼になかった。アタッシュケースは分解され装備に、そして愛車の「エルクレス」がサポートアイテムに。その様子は、まるでアイアンマンやバットマンのよう。開発者は映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE 〜2人の英雄〜』に登場したメリッサ・シールドだ。いわゆる映画オリジナルキャラクターが本編に関与してくることは珍しく、この辺の“すべての人物に意味を持たせる”点も、堀越先生らしい。そして何を隠そう、メリッサは“無個性”である。そんな彼女が、“無個性”のオールマイトに力を託す構図が美しく、まさに第396話のタイトル「“個性”なき戦い」を表すのだ。

 何より、この「アーマード・オールマイト」の素晴らしさは、繰り広げられる技が、自身が副担任を担当するA組の生徒たちそれぞれの個性をモチーフにしていることだ。エルクレスの装甲強化には切島鋭児郎からインスパイアされ、その後も上鳴電気の“チャージズマ”、瀬呂範太の“セロファン”、砂藤力道の“シュガーマン”、そしてオートガードのユーティリティマントは常闇踏陰の“ダークシャドウ”から生み出された。続けて芦戸三奈モチーフの超酸注入“ピンキー”、麗日お茶子のスラスター“ウラビティ”、飯田天哉の“インゲニウム”、障子目蔵と蛙吹梅雨の合わせ技“テンタコル”IN吸盤“フロッピー”、尾白猿夫の“ショートテイルマン”などを披露するオールマイト。デクの技も、自分が継承したものではなくデク自身が開発した“ブラックウィップ(黒鞭)”や“シュートスタイル”スマッシュをチョイスしているところに弟子へのリスペクトが感じられる。

 そして何より内通者の汚名を返上する如く、ヒーローとして開花した青山優雅の戦いと並行して、“元無個性”の彼の個性からインスパイアされた“CAN’T STOP TWINKLING☆(キラメキが止められないよ☆)が”大技として使われる点も「“個性”なき戦い」としての意味を深める。

 オールマイトがこのように皆の技を使いこなせるのは、デクだけでなくA組の生徒全員を日々観察し、大切に思っていたことの表れだ。特にそれはAFO戦直前に轟焦凍と飯田と交わした会話からも窺える。ホークスが“剛翼”の個性を奪われ壊滅状態となった時、AFOの元に向かおうとした轟と飯田。しかし、オールマイトは彼らに“強力な助っ人がいるから”と伝えたうえで群訝に向かわせた。その時に轟にかけた「皆を安心させてくれ! 君が君である為に」という言葉は、その表情からもわかるように消耗された彼の心を救ったことだろう。思い返すこと第206話「第3セット決着」で、轟はB組との対抗戦で無茶をしてチームメイトの飯田に助けられた。医務室で意識を取り戻した彼は、「安心させられるようなヒーローになんなきゃな」と言っている。その時、彼が心の中で“安心させられるヒーロー”として思い浮べたのは、幼い頃にテレビ越しに見たオールマイトだった。その憧れの相手にそんな言葉をかけてもらったのだ。飯田に対しても、彼がインゲニウムとして指針にしている“迷子を導く存在”として活躍できるように促していて、オールマイトがずっとこんなふうに皆の気持ちを想いながら前線から退き、見守っていたのかと考えると涙腺を刺激されてしまう。

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