『星を継ぐもの』はなぜSFミステリーの傑作と評される? 1980年刊行の名作が復刊される意味

 驚愕の真相が本書のキモであるが、書評で詳しく書くわけにはいかない。そこで別の面から、作品の凄さを語ってみよう。ミステリーを読んでいてがっかりするのは、謎解きに穴があったときだ。名探偵がトリックや犯人を明らかにしても、別の方法で殺せたり、別の人でも犯行が可能だと思ってしまうと、読者としては白けてしまうのである。だから作家は作中で、読者が想像するような可能性を潰さなくてはならない。それを本書は、きちんと実行している。

 たとえばチャーリーが死んだのが五万年前だというのは、放射性同位元素を使った試験によって確定したものだ。そのことについて作者は、「一部に、この試験方法の有効性はチャーリーが摂取していた食物および呼吸していた大気の組成が現在の地球人のそれと同じであるという前提にある、という指摘があった」と書いた後、すぐに宇宙服に関する発見から、「チャーリーが生きていた自然環境においては、食物も大気も現在の地球とさして変わりはないということを意味していた」と続けるのだ。こうした可能性の潰し方は、熟練のミステリー作家のようである。

 とはいえミステテリーの謎解きによって到達するのは、壮大なSFドラマと、人類の未来へのビジョンだ。この書評ではSFミステリーとしの魅力に注目したが、面白い物語を求めるすべての人にお薦めしたい作品である。

 なお本書を皮切りに「星を継ぐもの」シリーズ4冊すべてが新版として刊行されるとのこと。そして今冬には、シリーズ第5弾『ミネルヴァへの航海』(仮題)の刊行も予定されている。楽しみなことだ。

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