一見上手なスポーツ漫画、主人公の感情が伝わらないのはなぜ? プロの添削で分かった「表情」より「首」の重要性

 各種アプリやウェブサービスの広がりにより“掲載”の場が拡大し、多くのクリエイターが世の中に漫画を届けることができるようになった昨今。「人気作家」への道は相変わらず険しいものだが、SNSで創作漫画を発表して人気を獲得し、商業連載につなげたヒット作も続々と登場している。同時に、「独学」ゆえの悩みを抱えたクリエイターが少なくない状況だ。

 そんななか、YouTubeチャンネルで視聴者から作品を募り、プロが「添削」を行う動画が人気を集めている。そのトップランナーといえるのが、元週刊少年漫画誌の連載作家・ペガサスハイド氏だ。解説のわかりやすさ・的確さとともに、あくまで相談者の個性に寄り添ったアドバイスが心地よく、自分では漫画を描かない人も楽しく視聴することができるのが特徴。視聴者からの信頼が厚く、チャンネル登録者数は15万人を超える。

 最新の添削動画は、「【漫画添削75】表情豊かに描いているのに伝わらない理由〜プロ漫画家が教えます〜」と題されたもの。キャラクターの感情表現について、初級者にもわかりやすく解説している。

【漫画添削75】表情豊かに描いているのに伝わらない理由〜プロ漫画家が教えます〜

 今回取り上げられたのは、自身の漫画に迫力が出ているかを評価してほしいという、匿名希望さんの作品。怪我をして自暴自棄になっていた陸上選手が、また走れるようになって喜んでいるシーンを描いた1シーンだ。

 ハイド氏はいつものように、最初に作品の「いいところ」を評価していく。第一に、一目で「少年漫画」であり、「スポーツ漫画」であるとわかる伝わりやすさ。たとえば漫画雑誌をパラパラとめくって面白い漫画を探していて、一目で作品のジャンルが伝わってくるかどうかは、読者を獲得する上で想像以上に重要だという。

 また、今回の応募作は「明るく爽やか」であることも優れたポイントだと、ハイド氏は分析。漫画を読む立場からすると普通に思えるが、特に若い描き手は自分が陶酔できる、暗く重い作品を描きたがる傾向があるそうで、前向きなイメージを伝えられることは大きな武器になるようだ。主人公の名前が「天馬駆(てんま・かける)」という設定で、このわかりやすさも狙いがはっきりしていて、作品の世界観に合っていると評価した。

 それでは、さらにステップアップするにはどうすればいいのか。ハイド氏は自らペンを取り、ネームを引き直していく。詳しくは動画を確認していただきたいところだが、初心者向けのポイントとして指摘されたのが、「主人公の感情と動きの表現がやや乏しい」ということ。表情は苦しそうだったり、楽しそうだったりと描き分けられているが、ハイド氏が注目したのは「首」の描写だ。

 言われてみれば、応募作は主人公の顔がほぼ正面から捉えられており、表情は変わっても首の角度や動きに変化がない。特に見過ごされがちな「首」の動きは感情表現において極めて重要で、簡単に言ってしまえば、首が曲がって下を向いていれば気落ちしたイメージになり、逆に首が伸びて顔が上がれば、それだけで高揚感が出る。これを意識して引き直されたハイド氏のネームは、確かに主人公の感情が豊かに伝わってくる。さらにカメラアングルに角度をつけることで、迫力が段違いに増していた。

 その他、男性作家と女性作家の傾向の違いまで細やかに解説され、素人が言語化できないポイントが提示された今回の動画。漫画家を目指すクリエイターはもちろんだが、漫画をより深く楽しみたい読者にとっても発見のある内容だ。プロの漫画家がどんなことを意識して作画しているのか、気になる人はチェックしてみよう。

■参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=AqvMKF1_oZs

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