『代紋TAKE2』『ゴールデン・ガイ』任侠漫画の大御所・渡辺潤の漫画道 萌えキャラ、デジタル原稿への飽くなき探究心

渡辺潤、辛さのあまり漫画から逃げる

――渡辺先生はハロルド先生のほかにも、何人かの漫画家さんのもとでアシスタントを経験し、経験を積んでいます。アシスタント時代の大変だったエピソードなどはありますか。 渡辺:初めてお手伝いした先生は連載を何本も持っていたので、連日、泊まり込みで仕事を手伝っていました。あまりに忙しくて3日間貫徹なんて当たり前でしたし、家には1ヶ月のうち1~2日帰る程度でした。プライベートの時間もほとんどとれなくなってしまって、漫画漬け。当時付き合っていた彼女とうまくいかなくなり、凹んでしまったこともあります。

――それは苦しいですね。 渡辺:あるとき、僕はアシスタントが辛くなって、逃げ出したくなってしまいました。でも、なかなか辛いとは言い出せないじゃないですか。そこで、先生に「親が離婚してしまいそうで……」と、つい噓をついてしまいました。そしたら先生が心配してくれて、「一度帰宅しろ」と、バイクを貸してくれたんです。

――すごくアシスタント思いな先生だと思います。でも、嘘をついてしまったことで、その優しさが辛く感じたのではないでしょうか。

渡辺:唯一、自分の中で誇れるもの、好きなものが漫画だったのに、アシスタント先から逃げてしまいました。目標にしていた仕事から逃げてしまった。家に帰ってから、ひたすら後悔しましたよ。風呂に潜って大声で泣きました。でも気持ちを入れ替えて、その翌日にまた行きましたけれど。本当に恥ずかしい話です。

――アシスタント先での苦労と経験が、今の財産になっていると感じます。

渡辺:そうですね。アシスタント先の先生方が、僕にプロとしての心構えを教えていただきました。漫画家をやっていると、辛いとか、しんどいと思うことは何度もあるんですよ。そんなときに同年代のハロルド先生が新連載を始めていたりすると、刺激になりますね。僕もいつまでも走っていないと、先生に追いつけないなと思えます。僕は今でもハロルド先生が目標ですし、先生が辞めてくれないと、僕も漫画家を辞められないですね(笑)。

原作を木内一雅、作画を渡辺潤が手掛けた大ヒット作『代紋TAKE2』。タイムループする任侠漫画という今までにない独創的な漫画で人気に。

萌え絵もTwitterも新しい挑戦

――ハングリー精神もまた渡辺先生の創作の源だと思います。そして、現在も『ゴールデン・ガイ』を「週刊漫画ゴラク」で、週刊というハイペースで描いているのは本当に凄いことですよね。毎回とにかく絵の密度に驚かされます。しかしながら、連載中には想定外のコロナ禍もありましたし、先生も苦労が多かったのではないでしょうか。

渡辺:コロナ禍を機に、うちの仕事場も本格的にリモートを導入しました。現状、最大の問題はアシスタントと顔を合わせなくてよくなり、僕の気がゆるんでしまい、10kg太ったことですね(笑)。

――(笑)。

渡辺:それはさておき、リモートでは僕の手間が結構増えましたね。例えば、ベタとか、枠線引きとか、コピーを取ったりといった作業は本来スタッフにお願いしていた仕事です。ところが、今は仕事場に僕一人なので、全部自分でやっているんですよ。

――それは大変ですね……

渡辺:それもあってか、僕は原稿を上げるのがだいぶ遅くなってしまって。何しろ、パソコンの画面の原稿を見ながら、アシスタント1人1人に電話で指示を出しているんですよ。1日中そんなことをやっているせいで、1日で6枚仕上げていた原稿が、今では3枚しか完成しなくなってしまいました。カラー原稿があると余計に時間がかかるので、依頼があるのは凄く嬉しいのですが、なかなか受けられないのが悩みの種です(笑)。

――先生はペン入れまでアナログで行い、それをスキャナで取り込んでデジタルで仕上げるやり方をしています。 渡辺:でも、将来的にはフルデジタルの原稿に一度はチャレンジしてみたいんですよ。『ゴールデン・ガイ』が完結したら、次の連載に向けて準備している間にデジタルに慣れたスタッフに来てもらって、技術を教わりたいですね。

渡辺は、近年はTwitterで萌え絵の研究を行う漫画家として、若い世代にも人気を集める。こうした渡辺の真摯な探究心はアシスタント時代から変わらないのだ。画像提供=渡辺潤

――新しい技術を積極的に取り入れようとしておられる点が、渡辺先生が第一線で活躍されている要因なのではないかと思います。「萌え絵」の探求にもつながっているのだと思いました。

渡辺:もちろん戸惑いもあるのですが、貪欲に取り入れる、受け入れるくらいの気持ちでいかないとね(笑)。萌え絵の練習やTwitterは、僕にとって大きなチャレンジなんですよ。本来は、するはずがない行動ですからね。こういったチャレンジや変化を楽しめているうちは、僕も漫画家としてまだまだいけるんじゃないか、と思っています。

――そんな渡辺先生の最新刊、『ゴールデン・ガイ』も、6月29日にいよいよ9巻が発売されました。今回の見どころを教えてください。

渡辺:陰謀、暗躍、狂気……徳川埋蔵金を巡り、血で血を洗う抗争は加速していきます。腰痛、五十肩にも負けず、妥協することなく全開で執筆しています(笑) 『ゴールデン・ガイ』9巻を何卒、よろしくお願いいたします!

■渡辺潤氏のTwitterはこちら

https://twitter.com/Junwatanabe1968?s=20

『代紋TAKE2』『ゴールデン・ガイ』の漫画家・渡辺潤 任侠漫画の人気作家はなぜ萌え絵を描き始めた?

 1989年のデビュー以来、『代紋TAKE2』から『三億円事件奇譚 モンタージュ』など、数々のヒット作を送り出し…

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