砂村かいり × モモコグミカンパニーが語る、アイドル活動を終えた後の人生 「カメラをむけられないけれど、生活は続く」
砂村「小説家としてのモモコグミカンパニーが楽しみ」
――『黒蝶貝のピアス』では、他人の容姿をジャッジすることについてもテーマのひとつになっています。
砂村:私の既刊の恋愛小説(『炭酸水と犬』『アパートたまゆら』)は、ヒロインが外見で苦労していないので、「結局、美男美女の物語かよ、けっ」って感想があったんです。確かに、自分事ではないと感じる読者は多いでしょう。だから今回は、容姿のことをいわれたりする場面を意識的に盛りこみました。身内から「可愛いね、可愛いね」といわれ、自己肯定感高めで生きてきて、どこかでそれをポキッとへし折られる経験はあるでしょう。「可愛いね」には容姿だけではなく、親と似ているから可愛い、小さくて可愛いとかいろいろ意味がある。それなのに、アイドルとして通用すると思ってしまった子の視点から書きたかったんです。
――モモコさんは芸能活動をするなかで見た目をいろいろいわれる立場だし、『御伽の国のみくる』にも見た目についての話が出てきます。
モモコ:アイドルの場合、黒髪ロングで清楚っぽい子がいきなり金髪ショートにしたら「えっ」ていうファンが、かなりいると思います。だから、本人がそうしたくても、葛藤があるはず。私は、BiSHへ入った時に髪を真っ赤に染めたら、プロデューサーの渡辺淳之介さんにひどく怒られたんです。なぜ自分の髪なのに怒られるのか、自分の爪を切って怒られるのと同じ気分でした。
砂村:エッセイでも、美容院に行くなら事前に報告してくれといわれたと書いていましたね。
モモコ:後になって、撮影の関係があるからとか理解しましたけど。BiSHはわりと好き勝手にやってきたので、髪型や髪色のルールがもっときびしい普通のグループだったら、私は合格できても途中でやめただろうし、BiSHみたいに8年も続けられなかったと思います。
可愛いといってもらえることを栄養にアイドル活動をするだけでなく、女優とか、なりたい未来につながることを考えている人もいるはずです。ただ、可愛いといわれるかどうかはアイドルにとって重要で、自分と同世代の子が何千人何万人も応募してたくさん落選する。当時はその理由を知りたくてBiSHのオーディションに行ったんです。それがきっかけで、私の今があるくらい。
結局、私は、たぶん大衆向けにはなれなかった。BiSHだからいろいろ自分のやりたいことができて、なんとか今に至るって感じなので、なぜアイドルになりたい人がたくさんいるかは、あまりわからないままです。承認欲求というのは、あると思います。私は、承認欲求が悪いことみたいにとらえられているのが、すごく嫌なんですよ。自分を認めるためにも、自分の姿かたちをわかるためにも必要な欲だと思うから。若い時はそういう部分が増えていくし、だから、大勢がアイドルに応募するのかなと思ったりします。普通の回答ですけど(笑)。
――『黒蝶貝のピアス』は、アイドルをやめた女性のセカンドキャリアを描いています。そのデザイナーという職業のクリエイティブな面ばかりでなく、仕事でどう稼ぐかをシビアに書いているのが興味深かったです。
砂村:いくら技術やセンスがあっても生計を立てるのは別問題。特に芸術関係だと、それがお金になって戻ってくるまでのスパンなど、会社をうまく回すのは大変だろうと、菜里子に同情しながら書いていました。私も個人事業主なので自分の苦労も叩きこんで(笑)。
――間もなくBiSHが解散し、モモコさんも新たな道を歩み始めるわけですが。
モモコ:BiSHのモモコグミカンパニーから普通の人になる。グループをとっぱらった時、誰がついてくるんだろうという目で見ちゃうんですよ、今(笑)。自分のやりたいこと、例えばブランドを立ち上げたとして、私が次にやることだから、最初についてきてくれるのはファンの人だろうし、セカンドキャリアに進もうという時にはファンの声をみんな聞いていると思います。背中を押してもらうというか。
BiSHの解散は世間に公表する1年以上前に私たちは決めていたし、自分たちも納得して決めたので考える時間はたっぷりあった。今は忙しいから寝れればいいやみたいな気持ちもありつつ、その後の人生について考えることが多くなりました。それで、BiSHがなくなったらなんもないわと思って、解散までの残り時間で自分になにができるかと考えた時に書いたのが『御伽の国のみくる』です。
砂村:時期的にそうですね。
モモコ:小説にすごく憧れていたんです。小説を書かないと書けないことがわからないし、書かないままでいたらいつか書こうと夢を持ったままでいられる。でも、書いたけど自分は書けないんだ、全然ダメじゃんと思ったり、小説を書くことの面白みが感じられなかったら、自分のなかの可能性が絶たれるから怖かった。でも、グループは解散するので書くしかない。死ぬ気で門を開いた感じはあります。
――小説を書きあげてみて、これからも書いていこうと思いましたか。
モモコ:『御伽の国のみくる』はメイドさんの話ですけど、やっぱりアイドルに近い話だったから実体験みたいにいわれることが多かったんですけど、体験とかではなく、私としては男女の登場人物全員が自分なんです。BiSHだから読んでもらえたというのはあるけど、BiSHだから軽んじて見られたり、色眼鏡がつくっていうのも絶対あるので、その悔しさは私のなかにちょっとあります。だから、また書きたいです。
砂村:モモコさんの小説やエッセイは、言葉を変に加工せず、こしらえものではない表現で書かれているから、すっと入ってくるのが魅力だと思います。あまり軽率に使える表現ではありませんが、センスがあるとしかいいようがない。次の作品も楽しみにしています。ぜひ、小説家仲間になりたいです。
モモコ:そんな風に言ってくださるだなんて。これからも書いていきたいと思います。
■書籍情報
『黒蝶貝のピアス』
著者:砂村かいり
判型:四六判並製
ページ数:364ページ
初版:2023年4月21日
出版社:東京創元社