漫画家のサイン色紙、ニセモノ続々登場 背景にあるのは天井知らずの”高騰”

漫画家のサイン色紙で圧倒的に人気が高い作家の1人がやはり手塚治虫。金色の色紙に描かれたリボンの騎士のサファイア(右)は2023年5月7日のまんだらけオークションで87万円で落札され、高い人気を誇る。しかし、どんな分野でも品物が高騰すると現れるのは贋作だ。(左)は贋作だが、おそらく本物の画像をもとに模写したうえで、年月の経過を感じさせるようにわざと色紙を汚すなどの手を加えている。こうした怪しい色紙がネット上にあふれているため、信頼できる店で購入するのが鉄則である。

 ネットオークションやフリマサイトを見ると、手塚治虫、藤子不二雄、鳥山明、宮崎駿らの人気漫画家の直筆サイン色紙と称した品物が目に付く。しかし、これらのほとんどは偽物、贋作である。

 以前からこうした贋作は出品され続けており、ネットニュースでもたびたび取り上げられてきた。また、三浦みつるのようにTwitter上で贋作を指摘する漫画家もいた。しかし、事実上サイト運営側からはほとんど対策は講じられることがなく、放置状態が続いている。

 近年では、ある北海道の道の駅で、あろうことか贋作のサイン色紙ばかりを並べた展示会が開催されていた。おそらく地元のコレクターが集めたものなのかもしれないが、見る人が見ればすぐに贋作とわかる稚拙な品物ばかりだった。

 ネットオークションを見ると、いったい誰がこんな絵を欲しがるのかと首をかしげたくなるクオリティのものも多く出品されている。しかし、そんな絵が落札されている現実があるのだ。

 しばしネットでは、贋作出品者が別アカウントで値を吊り上げて入札を煽っているのではないか、いい評価をつけて安心させるためにわざと落札している、などと言われることがある。確かにそういったケースもあるのだろうが、記者がネットを見てみたところ贋作を手にして喜んでいる人がいた。真剣に本物だと思っているようで、複雑な気持ちになってしまった。

 長引くコロナ騒動の間に富裕層の投機熱が盛り上がり、現物資産に注目が集まった。異常な値上がりを見せた高級腕時計やポケモンカード、現代アート、ヴィンテージ玩具などがわかりやすい例だが、漫画家の原画や色紙にもその影響が及んでいるとみていい。しかし、熱は高まっているものの、原画や色紙を鑑定できる公的な組織は存在しないため、コレクターの審美眼と出品者の良識に頼っているのが現状である。

 漫画家のサインが芸能人のサインとは異なる点は、なんといっても絵が入ることが多い点である。そのため美術品と言っていい。例えば、かわいい女の子が描かれていたら、それは美人画であろう。日本の漫画やアニメは世界的に人気が高まっているため、この熱が簡単に冷めることはないだろう。

 こうした原画やサインの売買を長年手掛けているのは、中野ブロードウェイに本店をおく「まんだらけ」である。以前にリアルサウンドブックでは「まんだらけ」を取材しているが、原画やサインに対する思いは、漫画家によって大きくことなるという。ぞんざいに扱う漫画家や、売ってしまう漫画家もいる一方で、売買が盛んになることを快く思わない漫画家も少なくないそうである。

 しかしながら、日本の漫画が美術品として評価され、さらに原画の散逸や廃棄を防いで後世に伝えるためには、健全な二次流通のマーケットの整備は必要と思われる。そのためにはまず、ネットオークションやフリマサイトがしっかりと贋作の対策を行うべきであろう。そして、既に亡くなった漫画家の原画を購入する際は、信頼できる店で購入することをおすすめしたい。

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