恐怖と笑いは紙一重? 『地獄楽』に出てくる化物たちはなぜ“怖い”のか
神が人間を攻撃してくることの恐ろしさ
そしてもう1つ。前述のように『地獄楽』に出てくる化物たちは、神や仏の姿をしている場合が少なくないのだが(それ以外の動物的な化物たちの多くも、数珠などの法具を身に着けている)、それもまた“逆に怖い”イメージを喚起させる要因になっているといえるだろう。
具体的にいえば、その神(仏)に似た化物の多くは、仏教のものとも道教のものともつかない、いわば「できそこないの神様」(仙汰談)たちなのだが、「できそこない」だろうとなんだろうと、神の姿をした存在が人間に害をなす様子は、見ていて肌寒いものがある(むろん、本来、神というものは、洋の東西を問わず、そうした恐ろしい面も兼ね備えた存在ではあるのだが――)。
いずれにせよ、物語の中盤で、この得体の知れない化物(神?)たちの正体が明らかになった時、本作の序盤に漂う謎めいた“怖さ”は、いったんは解消されるだろう。しかしすぐに別のたぐいの“怖さ”が襲ってくることになる。それがどういう恐怖なのかは、じっさいにその目で確認していただきたい。