宮部みゆき『模倣犯』はなぜ映像化が困難なのか? 圧倒的な恐怖を生む“特異な構成”

樋口めぐみをどうするか

 もうひとつ重要だと感じている要素がある。それが、樋口めぐみというキャラクターの扱いについてだ。

 樋口めぐみは、一見すると網川浩一の殺人事件には関係してこない独立のキャラクターとして描かれており、網川と関わりを持つのは物語の終盤だ。それまでは異なる時系列の話のように書かれているため、映画版と台湾ドラマ版ではカットされている。唯一、ドラマ版に登場するが、彼女のエキセントリックで人を苛立たせる人物設定や、悲惨な暮らしぶりまでは落とし込まれていない。

 だが、この軽視されがちな樋口めぐみというキャラクターが、実は『模倣犯』の世界を引き締める重要な要素だったと筆者は考えている。というのも、彼女のセリフにより、被害者が併せ持つ加害性に焦点があたるからだ。ただ、重要な人物でありながら、物語の主線との絡みがないので、映像化の際にカットされてしまうのは致し方ないのかもしれない。

 ここまで書いて、宮部みゆきの『模倣犯』は改めて素晴らしいと感じた。文庫版だと5冊になるので、手に取るのを躊躇する人もいるだろう。正直なところ、筆者も文庫版なら読まないかもしれない。群像劇のように物語が進むため、途中で何を読んでいるのかわからなくなるし、中弛みしてしまう可能性も否定できない。筆者としては単行本を強くオススメしたい。物語のターニングポイントまで一気に読めるので、全体像を掴みやすく緊張感も続く。はやければ2日ほどで読めるので、是非とも“震えながら読む”経験を楽しんでほしい。

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