坂本龍一自伝『音楽は自由にする』を読む YMOさえ「誘われて」始めた男が傾倒した「映画」への思い

まるで映画のような人生

 そんな坂本が――あのYMOですら、「誘われたから」始めたという坂本が、珍しく自分からやりたいと思ったのが、映画音楽の仕事だった。『戦場のメリークリスマス』(大島渚監督)への出演依頼を受けた際の条件は、音楽も作らせてほしいというものだったという。結果的にそれが、後の『ラストエンペラー』(ベルナルド・ベルトルッチ監督)などの大きな仕事に繋がっていった――。

 ちなみに、本書を読めばわかるが、10代の頃の彼は、音楽だけでなく、映画、演劇、文学、美術にもかなり傾倒しており、とりわけ映画には、特別な想いがあったようだ。

 というよりもむしろ、坂本龍一の人生が、まさに映画そのものであった。本書の中で、彼はこんな風に語っている。

 映画というものには、何か現実と虚構の境を飛び越えてしまうようなところがあると思います。そういう強い磁力みたいなものを映画は持っていて、撮影現場で人が死んだりすることもある。「現実」とか「虚構」というのはあえて境界を設けるための言葉で、もともと現実は虚構で、虚構も現実で、境い目はないんです。そういう言葉の境界を越えた本当のことが、映画には映ります〜前掲書より〜

 フィクションに隠された真実を見抜いたなかなかするどい発言だと思うが、その「現実」と「虚構」の境い目を曖昧にし、観る者を別の世界へと誘(いざな)う窓口になったのが、他ならぬ坂本が作った映画音楽の数々だったとはいえないだろうか。

 いずれにせよ、坂本龍一がいないこれからの世界は、少々つまらないものになってしまうだろう。しかし、彼が関わった音楽や映画や書物、発信したメッセージの数々は、この先もずっと輝き続けるのだ。

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