小説の新人賞、なぜ「受賞作なし」相次ぐ? 作家デビューへの道はどう変化したか

 今年(2023年)の、第十四回小説 野性時代新人賞は、大賞が該当作なし、奨励賞受賞作として関かおるの「隣も青し」が選ばれた。同賞は昨年の第十三回も大賞が該当作なしであり、奨励賞受賞作として入江直海の「性の隣の夏」が選ばれている。二年続けて大賞なしとは珍しいことだ。また昨年は、鮎川哲也賞が受賞作なし、横溝正史ミステリ&ホラー大賞も大賞受賞作なしという結果であった。それぞれ、優秀賞・読者賞が選ばれ、作品が出版されているが、いささか寂しい状況である。だがこれは、近年の新人賞事情を反映したものといえるかもしれない。

 私は二十年以上にわたり、幾つかの新人賞の下読みを担当している。あくまでも個人的な感想になるが、その経験を踏まえていうならば、ここ十年の新人賞の全体的なレベルは上がっている。昔は、己の妄想をそのまま原稿にぶつけたような、小説になっていない応募作があった。しかし現在、そのような応募作は、滅多に見かけない。内容が面白いか詰まらないかは別として、とりあえず小説として読めるものがほとんどである。下読み担当としては、ありがたいことだ。

 だが一方で、最終選考に上げたいと思うような、優れた応募作は減っている。昔は十本に一本は面白いと思えた応募作があったが、いまは二十本に一本くらいだろうか。理由のひとつは、新人賞が増加したことだ。新人賞が増えれば、受賞者も増える。したがって才能のある応募者が、次々と受賞して、プロ作家になっていくのだ。逆にいえば、新人賞を受賞するほどの才能ある応募者が、次々といなくなるのである。

 また、新人賞以外の方法の作家デビューが増加してことも見逃せない。具体的には、インターネットの小説投稿サイトに掲載された作品を商業出版して、デビューする道である。「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」など、幾つもの小説投稿サイトがあり、現在では膨大なタイトルが商業出版されている。単なる趣味で執筆している人もいて、人気のある作品がすべて商業出版されるわけではない。だが商業出版を機に、プロ作家として活動するようになった人は多いのだ。昔ならば新人賞に応募したであろう才能の多くが、明らかにネット小説に取られているのである。

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