『呪術廻戦』の“説明過多”は作品の魅力? 『H×H』と共通するメタ的設定の巧妙さ

 「週刊少年ジャンプ」で好評連載中の『呪術廻戦』について、あるツイートがバズを起こしている。3月5日、こりまさん(@korimakorima)がつぶやいたもので、『呪術廻戦』は漫画編集者や漫画家が記す「マンガを描くときこれだけはやってはいけないこと」を大体やっているという内容で、それを好意的に捉えたものだ。

 例として挙げられているのは、「状況は絵と演出で魅せろ。セリフに頼るな。長々としたセリフで設定を説明させてはいけない」「急に出てきたキャラクターに問題を解決させるな」など。これに対して「説明的で展開についていけなかった」という趣旨の意見もあれば、「世代が違うとしか思えない」という声もある。作品の尖った性質についてポジティブに受け止める読者だけではないのは当然だが、一方で「説明の多さ」を作品の設定に取り込んでしまったのが巧みだ、とするファンが散見されるのが面白いところだ。

 どういうことか。『呪術廻戦』において、呪術師や呪霊が発動する特殊能力として「術式」と呼ばれるものが存在する。文字通り「必殺」と言えるほど強力な効果を持つものも少なくないが、それぞれが固有の能力であり、使用者本人の主観でしか語れないルールや理屈が存在するため、どうしても「説明過多」になりがちだ。

 普通は「なぜ自らカラクリを明かすのか」「なぜ戦いの最中にリスク度外視でペラペラと話すのか」など、違和感が生じるところだが、『呪術廻戦』では「自ら手の内を明かすことで術式の効果が上昇する」という設定があり、つまり「リスクを冒すメリット」が示されている。その前提があるため、「説明にブラフを入れる」などメタ的な攻防も生まれ、ときに「説明」自体が戦略に組み込まれることになる。

 もちろん、「なおさらわかりづらい!」という読者も少なくないと思われるが、能力バトルに情報戦のような知的興奮を加えつつ、「何が起こっているか」を言葉で明確に説明するという構造になっていることが、世界観の強度につながっていると考えられる。

 近しいことが言えるのが、能力バトル漫画の金字塔『HUNTER×HUNTER』だ。同作における「念能力」の強さは、本人のポテンシャルだけでなく、「制約と誓約」によって決まる部分が大きい。つまり、明確なルール(制約)を設定し、それを遵守することを誓う(誓約)ことで、自信が持つ能力を超えた力を発揮することができる。そのリスクが大きいほど効果は絶大になるため、自分を不利にする「能力(発動条件)の開示」はブースターになる可能性があるのだ。

 例えば、「ボマー」という通称を持つ念能力者・ゲンスルーは、相手の体に念で作った爆弾を取り付け、強力な爆発を引き起こし相手を死に至らしめる凶悪な能力(命の音/カウントダウン)を持っていたが、その発動条件の一つに「能力の説明とその解除方法を自身が口頭で伝える」という制約が含まれていた。

 一方、作中屈指の強者である「幻影旅団」のリーダー・クロロ=ルシルフルは、相手の能力を盗み、使用する「盗賊の極意(スキルハンター)」という強力な能力を持っており、その発動条件のひとつに「相手の能力について質問をして、回答を得る」というものが含まれている。こちらも「能力の説明」をめぐる面白い仕掛けだ。

 作品の内容が複雑化するほど理解したときの楽しみは膨らむが、「説明」の必要性は増していきがちだ。その「説明」自体を仕掛けとして機能させている『呪術廻戦』は、芥見下々という大きな才能が生み出した快作であるとともに、再現性のあるヒット作と言えるかもしれない。

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