『うる星やつら』OP作画監督・近岡直に聞くキャラデザの極意 「作家性とフェチは同じ、趣味嗜好を投影すると強みが生まれる」
アイドルアニメの制作秘話
――近岡先生の代表作といえば、2014年に発表された山本寛監督の『Wake Up, Girls!』(以下『WUG』)です。総作画監督とキャラクターデザインを務めています。
近岡:A-1 Picturesに所属して『フラクタル』に関わっていたとき、席が近かったこともあって、山本監督と知り合いました。ちょうど僕がA-1の社風が合わないと思っていた時期に(笑)、「一緒にやりませんか?」と誘われました。最初にやったのはショートアニメの『blossom』で、次に来た大きな企画が『Wake Up, Girls!』です。東日本大震災のチャリティーのアニメをつくるという趣旨で、誘われたんだと思います。
――キャラクターデザイナーとして関わってみて、いかがでしたか?
近岡:割と自分に合っている仕事だなと(笑)。もともとオリジナルのアニメ作品に関わりたいと思っていましたし、何といっても女子中高生が描けるのが嬉しかったんですよ。当時は実力が伴っていなかったので、今になって見ると力不足感はありますが、一生懸命仕事をしました。
――私は、無類の女子高生や制服好きである近岡先生にぴったりな仕事だと思いました。仙台市内に実在する学校の制服をアレンジした制服が登場しますが、取材はされたのですか。
近岡:あれはどうだったかな。取材班が仙台に行って写真を撮らせてもらったような。でも、そこまで詳しい写真を貰ってなかった気もするので、自分で調べたのかな。一部の学校はパンフレットをもらって、参考にしながら絵を起こしたと思います。
近岡流のキャラクターデザイン術
――アイドルアニメのキャラクターを描き分けるうえで、もっとも重視していることはなんでしょうか。
近岡:『WUG』のキャラクターデザインは、オーディションで決まった声優さんのイメージをベースにしています(編集部注:例えば、林田藍里は声優の永野愛理のイメージを投影し、左頬に泣きぼくろがある。キャラの名前も声優の名前と同じ読みである)とはいえ、僕なりのフェチズムを、キャラごとにかぶらないように入れています。僕のキャラクターデザインは、フェチっぽくないとダメなんですよ(笑)。
――具体的にはどんな部分でしょうか。
近岡:よっぴー(七瀬佳乃)があの髪型なのは、僕が黒髪ロングぱっつんが好きだからです(笑)。ななみ(久海菜々美)はポニーテール、かやたん(菊間夏夜)はギャルっぽい感じが好きなので、その要素を入れました。もちろんプロットの段階で7人のキャラ設定は決まっていますが、設定から逸脱しない範囲内で上手く自分のフェチを割り振っています。
――結果、近岡先生の好みのキャラクターができあがっているわけですね。
近岡:繰り返すようですが、いいキャラを作るにはまずデザイナーがキャラを好きにならないとダメなんですよ。そのためにはフェチが入っていないといけない(笑)。僕は、作家性ってフェチとイコールなんじゃないかと思います。クリエイターがいいものを作るには、フェチで戦うと強い。創作ってそういうものじゃないですか。
――山本監督はデザインについて、どんな指示を出されていましたか。
近岡:山本監督はキャラのイメージを壊さない範囲なら、割と自由にやらせてくれました。だから、僕のフェチを盛り込めたのだと思います。最近思うことなのですが、アニメーターに自由にやらせると演出意図とずれてくるという人もいますが、僕は自由にさせた方がかえっていい結果が得られる気がしています。
――クリエイターが楽しみながら創作ができるのが理想というわけですね。そういう意味では、『WUG』は山本監督と近岡先生の趣味がうまく融合している作品だと思います。
近岡:『WUG』がなぜいいかというと、山本監督がめちゃくちゃアイドル好きでインプットがとにかく多いからだと思いますよ。インプットなくして、アウトプットはないですよね。山本監督が今までアイドル文化に触れてきて、感動したものを表現している。そういったにじみ出ている部分にファンが共感するからいいんだと思います。
――おっしゃる通りですね。
近岡:最近特に思っているのは、僕ももっとインプットを増やさないといけないということです。インプットを増やして、感動して、「ああもう、しゃべりたいなあ!」と思うことが作品になるんだと思いますよ。
自身の会社でこれからやっていきたいこと
――2019年に、近岡先生はアニメ制作の会社「すなまる」を立ち上げました。その理由や近況について教えてください。
近岡:いま会社は4期目なのですが、最近思っているのは、受け身の仕事だけでなく自分で発信する仕事を増やしていきたいということです。最初はショートアニメをつくる会社にしたいと思っていましたが、アニメにこだわらず、漫画やイラストなど、ジャンルを決めずに作品を作っていきたいですね。
――クリエイション全般の会社ということですね。
近岡:僕が読んでいる佐渡島庸平さんのnoteに、「最高のエンターテイメントは本気の遊びだ」と書いてあったのです。まさにそうだなと。例えば、僕がゲーム実況しても面白くないわけですよ。本気で面白いと思ってやっている人には勝てません。これからは、本気で遊んでいることが重要。たぶん、人気のクリエイターさんはそんな感じで作品を作っていると思うんですよ。
――近岡先生の濃密な趣味嗜好が投影された作品が生まれるのが、楽しみです。
近岡:これからの人生は、自分が楽しいと思うことを存分にやっていきたいです。僕はアニメの業界に関わってきて、企画をする側にいきたいという想いが強くあるんです。オリジナルの企画をやりたいですし、関わる作品の中にも、許しが得られるならもっと自分の好きな気持ちを盛り込んでいきたいと考えています。