『チェンソーマン』キスシーンはなぜ刺激的? 読者を惹きつける“命懸けの恋心”
※本稿は『チェンソーマン』のネタバレを含みます
藤本タツキによる漫画『チェンソーマン 第二部』119話「泥棒」が、2月1日に「少年ジャンプ+」にて公開され、そのキスシーンが波紋を呼んでいる。
主人公のチェンソーマン=デンジと“戦争の悪魔”に体を乗っ取られている三鷹アサは、お互いにさまざまな誤解や勘違いをしながらも、デンジの家で映画鑑賞デートをすることになる。しかし、デンジの家には共に暮らしている“支配の悪魔”ナユタがいるため、彼女の前で決してイチャイチャしてはいけないなど、さまざまなルールがある。もしもルールを破ると、何やら恐ろしいことが起こるらしい。ところが、アサの体を乗っ取っている“戦争の悪魔”ことヨルは、デンジを武器にしたいがため、その心を奪おうとしてアサと入れ替わり、突然デンジにキスをする。そこにちょうど、ナユタが帰宅してしまい……。
『チェンソーマン』ではこれまでもたびたび刺激的なキスシーンが描かれてきた。その都度に読者を大いに沸かせているのはなぜか。漫画編集者の島田一志氏にポイントを聞いた。
「まず、デンジとアサが二人で映画を観るというシチュエーションから考えてみましょう。藤本タツキの漫画では『チェンソーマン』に限らず、『さよなら絵梨』『ファイアパンチ』などで男女が共に映画を観るシーンが印象的に描かれてきました。藤本タツキ作品における映画は“人生の象徴”であり、男女が同じ映画を観るシーンは、共に自らの人生と向き合い、同じビジョンを共有する瞬間を描いていると見ることができます。
例えば『チェンソーマン』5巻では、デンジは憧れのマキマと映画館をハシゴして観まくり、同じシーンで涙するなどして価値観を共有し合う。ところがその後、デンジがマキマに『アンタの作る最高に超良い世界にゃあ糞映画はあるかい?』と問うと、マキマは『私は… 面白くない映画はなくなった方がいいと思いますが』と答える。対するデンジは『うーん…じゃやっぱ殺すしかねーな』と言って、バトルが始まります。デンジは糞な映画=人生にも意味はあると考えている一方で、マキマはないと考えていることが、決定的な価値観の違いとして現れるんです」
同じ映画を観ることで人生における価値観を共有しつつも、その関係性には常に緊張感があることが、読者を惹きつける一要因となっていると島田氏は指摘する。