「もののふ」たちはなぜ1000年にわたって殺し合わなければならなかったのか? 中世の争いの歴史を描く『もののふの国』
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ある登場人物は言う。「海族、山族の話、聞いたことはあるか?」「なんでも、この国には神代の昔から海の一族、山の一族と呼ばれる者たちがいるそうだ。そしてその二つの一族は争いを繰り返し、代わる代わる日ノ本を治めている。平氏は海、源氏は山、織田は海、明智は山、といった具合にな」。
恐らく、今回のプロジェクトがなかったら、ここまで大胆な「仮説」は立てなかったのではないだろうか。しかし、実際読み終えてみると、確かにそんな気がしないでもない。いわゆる「伝奇ロマン」としては、至極筋が通っているようにも思えるのだ。あの「対決」も、この「戦い」も、実は「海族」と「山族」が関係していたのかもしれない――実際、文庫化に際して著者は、「上杉謙信」と「武田信玄」に関する短編を新たに書き下ろし、増補している。「もののふ」1000年の歴史を、ある「因果」の連鎖によって読み解いてみせる、独立した一冊としてはもとより、それでは、それ以前の「古代」や「原始」においては――はたまた、それ以降の「昭和」や「平成」、さらには「未来」において、その「因果」は、どのように始まり、どのような帰結を迎えるのだろうか。という意味で、〈螺旋プロジェクト〉全体への関心も、大いに喚起させるような一冊と言えるだろう。
■書籍情報
『もののふの国』(中公文庫)
天野純希 著
発売:2022年12月21日
価格:¥946
出版社:中央公論新社
螺旋プロジェクト 特設サイト:https://www.chuko.co.jp/special/rasen/