鈴木涼美、小川哲らが第168回・芥川賞と直木賞の候補作に インタビューと書評で紐解く各々の作家性

 第168回・芥川賞と直木賞の候補作が本日発表され、それぞれ5人の作品が選ばれた。選考委員会は、2023年1月19日に都内で開催する。

 特にリアルサウンドブックでは、今回芥川賞候補者となった鈴木涼美氏と、直木賞候補の小川哲氏をたびたび取材や書評で紹介してきた。

 作家の鈴木涼美氏は前回、初小説「ギフテッド」がノミネートし話題に。リアルサウンドに掲載した「鈴木涼美×島田雅彦×宮台真司」の鼎談では、芥川賞選考委員である島田氏が「技巧的」で「イチオシで推薦」したと明かした。

 今回の候補作「グレイスレス」では、アダルトビデオ業界で化粧師として働く女性を描くが、島田氏はじめ選考委員はどう読み解くかに注目だ。

 SF作家の小川哲氏は2度目のノミネート。候補作「地図と拳」は、日露戦争前夜から第2次大戦までの半世紀、満洲のある地域で繰り広げられる知略と殺戮を描いた巨編小説。

 リアルサウンドの小川哲×門馬司氏の対談インタビューでは、いま満州を舞台にフィクションを描く意味を率直に語った。「新しい国家を目論んだ満州は、多様性など今我々が抱える課題に先進的な答えを出すことも可能な場所」で、今のロシアとウクライナの戦争とも通ずると話している。昨今の世界情勢を鑑み、受賞にいたるかどうかーー。こちらも必読の大作だ。

 候補作は以下の通り。芥川賞は4人、直木賞は2人が初の候補となった。各候補者のプロフィールと作品一覧とともに、リアルサウンドブックでの関連記事を紹介したい。

芥川賞

■安堂ホセ「ジャクソンひとり」

1994年生まれ。2022年「ジャクソンひとり」で第59回文藝賞を受賞しデビュー。

〈作品〉「ジャクソンひとり」2022年文藝冬季号、単行本は同年河出書房新社刊。

■井戸川射子「この世の喜びよ」

1987年生まれ。関西学院大学社会学部卒。

〈作品〉『する、されるユートピア』(2018年私家版)19年青土社刊=第24回中原中也賞受賞。「ここはとても速い川」20年群像11月号、単行本は21年講談社刊=第43回野間文芸新人賞受賞。『遠景』22年思潮社刊。「この世の喜びよ」22年群像7月号、単行本は同年講談社刊。

■グレゴリー・ケズナジャット「開墾地」

1984年生まれ。クレムソン大学、同志社大学大学院卒。2021年「鴨川ランナー」で第2回京都文学賞を受賞。同作品を収録した『鴨川ランナー』でデビュー。

〈作品〉『鴨川ランナー』2021年講談社刊。

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■佐藤厚志「荒地の家族」

1982年生まれ。東北学院大学文学部英文学科卒業。仙台市在住、書店勤務。2017年、第49回新潮新人賞を「蛇沼」で受賞しデビュー。

〈作品〉「蛇沼」2017年新潮11月号。「境界の円居」第3回仙台短編文学賞大賞受賞=20年小説すばる5月号。「象の皮膚」21年新潮4月号=第34回三島由紀夫賞候補、単行本は21年新潮社刊。

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■鈴木涼美「グレイスレス」

1983年生まれ、神奈川県鎌倉市育ち。2007年慶應義塾大学環境情報学部卒業。09年東京大学大学院学際情報学府社会情報学修士課程修了。09~14年日本経済新聞社勤務、以後執筆活動に入る。

 〈作品〉『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』2013年青土社刊。『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』14年幻冬舎刊。『愛と子宮に花束を 夜のオネエサンの母娘論』17年幻冬舎刊。『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』19年マガジンハウス刊。『ニッポンのおじさん』21年KADOKAWA刊。『往復書簡 限界から始まる』(上野千鶴子氏との共著)21年幻冬舎刊。『JJとその時代 女のコは雑誌に何を夢見たのか』21年光文社刊。『娼婦の本棚』22年中央公論新社刊。「ギフテッド」22年文學界6月号=第167回芥川賞候補、単行本は22年文藝春秋刊。『8㎝ヒールのニュースショー』22年扶桑社刊(近刊)、等。

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第167回芥川賞候補になった鈴木涼美の初中編小説『ギフテッド』(文藝春秋)について、本人、社会学者・宮台真司、作家・島田雅彦が語…

直木賞

■一穂ミチ「光のとこにいてね」

1978年生まれ。関西大学卒。2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。

〈作品〉『イエスかノーか半分か』(2014年~・新書館ディアプラス文庫)シリーズなど著作多数。『スモールワールズ』21年講談社刊=第43回吉川英治文学新人賞受賞、第165回直木賞候補、第12回山田風太郎賞候補。同作所収の短編「ピクニック」=第74回日本推理作家協会賞短編部門候補。『砂嵐に星屑』22年幻冬舎刊=第35回山本周五郎賞候補。

【インタビュー】直木賞候補・一穂ミチが語る、『スモールワールズ』に込めた想い 「私の知らない巡りをしている星が無数にあって、重なって離れていく」

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発売前から書店員の間で話題騒然となり、先日発表された第165回直木賞にもノミネートされた『スモールワールズ』。著者の一穂ミチは、…

■小川哲「地図と拳」

1986年生まれ。東京大学教養学部卒。東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退。2015年『ユートロニカのこちら側』で第3回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。

〈作品〉『ユートロニカのこちら側』2015年早川書房刊。『ゲームの王国』(上・下)17年早川書房刊=第38回日本SF大賞受賞、第39回吉川英治文学新人賞候補、第31回山本周五郎賞受賞。『噓と正典』19年早川書房刊=第162回直木賞候補。『地図と拳』22年集英社刊=第13回山田風太郎賞受賞。『君のクイズ』22年朝日新聞出版刊。

【インタビュー】『地図と拳』小川哲×『満州アヘンスクワッド』門馬司 特別対談 いま満州を舞台にフィクションを描く意味

『地図と拳』小川哲×『満州アヘンスクワッド』門馬司 特別対談 いま満州を舞台にフィクションを描く意味

日露戦争前夜から第2次世界大戦まで満州のある地域をめぐり、密偵、都市計画、戦闘など波乱万丈の歴史を語った長編小説『地図と拳』(小…

【書評】満洲国にも理想や夢を託す人はいたーー「地図=国家」と「拳=戦争」を描き切った大作『地図と拳』

満洲国にも理想や夢を託す人はいたーー「地図=国家」と「拳=戦争」を描き切った大作『地図と拳』

地図は国家。拳は戦争(暴力)。小川哲の『地図と拳』は、満洲の地を舞台に、多数の人物を絡ませながら、国家と戦争を描いた大作である。…

■雫井脩介「クロコダイル・ティアーズ」

1968年生まれ。専修大学文学部卒。2000年、第4回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作『栄光一途』で作家デビュー。04年に『犯人に告ぐ』が同年の「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位となり、第7回大藪春彦賞も受賞。『火の粉』『クローズド・ノート』『ビター・ブラッド』『検察側の罪人』『仮面同窓会』『望み』『引き抜き屋1 鹿子小穂の冒険』『引き抜き屋2 鹿子小穂の帰還』など映像化された作品多数。

〈作品〉『虚貌』2001年幻冬舎刊=第4回大藪春彦賞候補。『犯人に告ぐ』04年双葉社刊=第7回大藪春彦賞受賞、04年版「週刊文春ミステリーベスト10」第1位、第26回吉川英治文学新人賞候補。『望み』16年KADOKAWA刊=第7回山田風太郎賞候補。他の作品に『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』15年双葉社刊。『犯人に告ぐ3 紅の影』19年双葉社刊。『霧をはらう』21年幻冬舎刊、等。

■千早茜「しろがねの葉」

1979年生まれ。立命館大学文学部卒。2008年「魚神(いおがみ)」で第21回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。〈作品〉『魚神』2009年集英社刊=第37回泉鏡花文学賞受賞。『あとかた』13年新潮社刊=第20回島清恋愛文学賞受賞、第150回直木賞候補。『男ともだち』14年文藝春秋刊=第151回直木賞候補、第36回吉川英治文学新人賞候補。『透明な夜の香り』20年集英社刊=第6回渡辺淳一文学賞受賞。『ひきなみ』21年KADOKAWA刊=第12回山田風太郎賞候補、第38回織田作之助賞候補。食にまつわるエッセイに『わるい食べもの』(18年~3巻まで刊行。集英社刊)シリーズ。尾崎世界観との共著『犬も食わない』18年新潮社刊。新井見枝香とのエッセイ共著『胃が合うふたり』21年新潮社刊。

■凪良ゆう「汝、星のごとく」

滋賀県生まれ。2006年にBL作品にてデビューし、代表作に21年に連続テレビドラマ化された「美しい彼」シリーズなど多数。17年、文芸作品として『神さまのビオトープ』(講談社タイガ)を刊行し高い支持を得る。20年『流浪の月』で本屋大賞を受賞、同作は22年に実写映画化された。

〈作品〉『流浪の月』2019年東京創元社刊=第17回本屋大賞受賞、第41回吉川英治文学新人賞候補。『わたしの美しい庭』19年ポプラ社刊=第11回山田風太郎賞候補。『滅びの前のシャングリラ』20年中央公論新社刊=第18回本屋大賞7位、キノベス!2021 第1位。

【インタビュー】凪良ゆう「人間の中にある善も悪もフェアに書きたい」 恋愛を通して描いた人生の物語

凪良ゆう「人間の中にある善も悪もフェアに書きたい」 恋愛を通して描いた人生の物語

約2年ぶりとなる凪良ゆうの新作長編『汝、星のごとく』(講談社)が刊行された。2020年の「本屋大賞」を受賞した『流浪の月』、そし…

【書評】凪良ゆう『汝、星のごとく』(講談社)

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