米澤穂信の直木賞受賞後作品や青山美智子らが登場……立花もも解説! 11月の文芸書週間ベストセラー

 文芸書の週間ベストセラーランキングの中から注目作品を立花ももが解説。11月はどんな作品が登場するのか。早速行ってみましょう!

 11月期【単行本 文芸書ランキング】 (11月15日トーハン調べ)

1位 米澤穂信『栞と噓の季節』(集英社) 
2位 内館牧子『老害の人』(講談社) 
3位 青山美智子『月の立つ林で』(ポプラ社) 
4位 池井戸潤『ハヤブサ消防団』(集英社)
5位 青柳碧人『赤ずきん、ピノキオ拾って死体と出会う。』(双葉社) 
6位 夏井いつき『瓢箪から人生』(小学館)
7位 又吉直樹/ヨシタケシンスケ『その本は』(ポプラ社) 
8位 袋和仁『あなたのお城の小人さん
~御飯下さい、働きますっ~ 2』(スクウェア・エ
ニックス)
9位 結城真一郎『#真相をお話しします』(新潮社) 
10位 神無月紅『レジェンド 20』(KADOKAWA)

 11月第二週の週間ベストセラー、1位は米澤穂信の直木賞受賞後初となる『栞と嘘の季節』。『黒牢城』で初めて米澤作品を手にとった読者には「歴史小説じゃないの?」と思われるかもしれないが、もともと『氷菓』で角川学園小説大賞を受賞しデビューした米澤の原点は青春ミステリ。そして『氷菓』から連なる〈古典部シリーズ〉がアニメ化・実写映像化されるほど人気を博したように、キャラクター群像劇のシリーズものも、米澤の得意とするところ。高校で図書委員を務める堀川と松倉、二人の男子高生が日常の謎を解き明かしていく連作短編集『本と鍵の季節』に続く〈図書委員シリーズ〉第二作目となる今作は、米澤穂信の新章幕開けにふさわしい一作なのである

米澤穂信『栞と噓の季節』(集英社)

 事の発端は、返却本に挟まれた猛毒トリカブトの押し花。持ち主を探す二人は、校舎裏でひそかに栽培されているのを発見するのだが、その矢先、校内である人物が毒を盛られる事件が発生。さらに、押し花の栞の持ち主だと同級生の瀬野が名乗り出てきて……。というのがざっくりとしたあらすじだが、タイトルからもわかるように、本作のカギとなるのは毒の栞と、そして〝嘘〟。嘘というのは、他人を欺くためのものであると同時に、そうあってほしいという誰かの願いである場合もある。誰がどんな嘘をついて、毒をもちいるに至ったのか。ほろ苦い真実が解き明かされていく過程を、堪能してほしい。

  なお、本作だけを読んでもじゅうぶん楽しめる作品ではあるが、「そんな終わり方をするのか……!」と多くの読者の心をかっさらった前作から読み始めてほしい、というのが正直なところ。瀬野も、前作にちらりと登場している人物なので、あわせてぜひ。

青山美智子『月の立つ林で』(ポプラ社) 

 3位は、青山美智子の一年ぶりとなる書きおろし作品。『木曜日はココアを』では川沿いの小さな喫茶店、『鎌倉うずまき案内所』では双子のおじいさんとアンモナイト、『お探し物は図書室まで』ではコミュニティセンターの図書室にいる熊のような司書。青山作品にはいつも、一見、なんの接点もなさそうな人たちを不思議な糸でつないでいく、媒介のような人や場所が描かれてきた。今作『月の立つ林で』でその役割を果たすのは、タケトリ・オキナという男性が月について語るポッドキャスト「ツキない話」である。

 41歳の元看護師。30歳のピン芸人。55歳の整備士。18歳の高校生。28歳のアクセサリー作家。主人公となる彼らはみな、ままならないことだらけの日常をもてあまし、それぞれに不安と後悔を抱えている。その日常を変えたいと願うのならば、決断するのも行動するのも自分自身だ。他の誰も助けてなどくれない。けれど、たとえ部屋から一歩も出なくても、誰かと直接顔をあわせることはなくても、最初の一歩を踏み出す勇気をくれる存在に出会えるかもしれないのだと、読者の背中をも押してくれる優しさに本作は満ちている。

 青山さんの本を媒介に、私たち読者もきっとどこかで繋がっている。ひとりだけど、ひとりぼっちじゃない。読むたびそう信じさせてくれるのも、著者が強く支持されている所以だろう。

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