【ラノベ週間ランキング分析】宝塚の舞台化で話題 同人誌発の歴史ロマンや「魔法科」シリーズ新作や「SAO」作者の新シリーズも
アニメ化やドラマ化で順位が動くことは当たり前のように起こるRakutenブックスのライトノベルランキングでも、宝塚による舞台化で上位に躍り出た作品はこれが初めてだろう。ライトノベル週間ランキング(2022年11月7日~13日)で2位となった並木陽『斜陽の国のルスダン』(星海社FICTIONS)は、11月12日から12月13日まで、浪漫楽劇『ディミトリ~曙光に散る、紫の花~』─並木陽作「斜陽の国のルスダン」より─というタイトルで、星組によって兵庫県宝塚市の宝塚大劇場で上演されている舞台の原作だ。
タイトルにあるルスダンとは、南コーカサスにあってトルコやアゼルバイジャンと接するジョージアという国を1223年から1245年まで治めた女王の名前。その頃のユーラシア大陸は、チンギス・ハンに率いられたモンゴルが怒濤の勢いで版図を広げ、ヨーロッパへと迫る侵攻を行っていた。ジョージアにもモンゴルの侵攻が及んで何度か激しい戦闘が行われたが、1222年の戦いでルスダンの兄にあたる国王のギオルギ4世が胸に深手を負い、程なくして亡くなった。
その時はどうにかモンゴルを退けたものの、ルスダンが女王となったジョージアにはモンゴルとは別の敵も迫って来ていた。モンゴルに領土を奪われたイスラムのホラムズ・シャー朝の王子、ジャラルッディーンが残党を集めて放浪を続ける中で、ジョージアの土地に目を付け奪い取ろうと画策していた。
ジョージアとモンゴルとの戦いは、キリスト教の国が初めてモンゴルと接触した歴史的な出来事だったとのこと。そんな900年前の事件や、ジョージアに暮らす人々の生活といったものを、まるで目の前で起こっているかように楽しめる歴史小説ならではの面白さがある上に、『斜陽の国ルスダン』には、女王ルスダンをめぐる悲劇的なドラマがあって心が惹きつけられる。
ここでルスダンと並ぶ存在となるのが、ディミトリという男性だ。半ば人質としてグルジアへと送られ、ルスダンと共に育ったルーム・セルジューク朝の王子だったが、兄の急逝で女王の座に就いたルスダンには配偶者が必要ということで、夫として迎え入れられた。キリスト教に改宗していても、敵対するジャラルッツディーンと同じイスラム出身ということで政治には口を出せないディミトリだったが、ルスダンを支えジョージアの国を守ろうとしていたはずだった。
それでも耐えきれない諸外国からの猛攻の中、ディミトリが選んだ道が、慟哭を誘い感情を揺るがすものになっている。宝塚でこのディミトリを主役に据えたのも分かる振る舞いから、本当の愛とは何かを知ることができるだろう。
もともとは同人誌として2016年に刊行され、NHKでオーディオドラマとなって知る人が増え、歴史ロマンとして評判になった本書。それでもメジャーとは言えない作品を取り入れて舞台化する宝塚の柔軟さには恐れ入る。その公演に合わせて出版する星海社のフットワークも極めて軽いが、小説では女王ルスダンの約50年に及ぶ数生涯のすべてが描かれているとは言えない。過酷な時代を走り抜いた女性の生き様に触れられる物語が後に続けば嬉しいのだが。