『ゴールデンカムイ』野田サトルの新作、舞台は苫小牧? 経歴非公表でも作品から滲み出る“道民の誇り”
『ゴールデンカムイ』の作者・野田サトル氏の新作は、苫小牧を舞台とする高校アイスホッケー漫画になるようだ。野田氏は2022年に苫小牧を三度訪れるなど取材を重ねており、「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で23年春の連載開始を目指していると、11月10日付の北海道新聞が伝えている。
野田氏は「作品」と「作者」は切り離して考えるべきだという考えから、詳しい経歴などは公表していないことで知られる。しかし、北海道北広島市出身であることは明かされており、『ゴールデンカムイ』では綿密な取材をもとにアイヌ文化を丁寧に描き、次回作の舞台も苫小牧となれば、本人にとって身近で、血が通うモチーフを選んできたように思える。各種インタビューを読んでいると、思い入れの強さがそのまま作品の強度につながる熱い作家というイメージもあり、新連載がなおさら楽しみになってくる。
漫画好きなら、野田サトルとアイスホッケーと聞いて、連載デビュー作『スピナマラダ!』を思い起こすだろう。前出の北海道新聞記事によれば、新連載は同作の主な設定を引き継ぎ、ある意味ではリメイクのような形になるようだ。“熱い作家”ぶりはその意気込みにも表れており、野田氏は「中途半端な作品になって悔しかった。また描きたかった」と語ったという。
『ゴールデンカムイ』はよく知っていても、『スピナマラダ!』は読んだことがない。そんな人のために簡単に紹介しておくと、全6巻を熱中して一気読みしてしまうくらいに面白いスポ根漫画だ。
主人公は、将来を嘱望されるフィギュアスケーターでありながら、オリンピック選手だった母を事故で亡くし、リンクを降りた白川朗という少年。親族を頼って引っ越した苫小牧でアイスホッケーという競技に出会い、ひょんなことからのめり込んで、新たな才能を開花させていくーー。
「変人」の描き方や、シリアスななかに不意に差し込まれるユーモアなど、野田サトルならではの魅力はすでに見られ、才能あふれる主人公が簡単には活躍しないところに、アイスホッケーというスポーツに対するリスペクトも感じられる。その裏返しとして、カタルシスを感じられる瞬間が多いとはいえず、読者の関心を維持しづらかったことが、思うように人気を得られなかった要因かもしれない。
『ゴールデンカムイ』という大ヒット作を生み出した経験から、作話のバランスを整え、キャラクターの魅力をさらに深めることができれば、新連載の成功は約束されたものに思える。2017年1月8日付の朝日新聞に掲載された記事「【叶える力】(7)漫画家・野田サトルさん」で、野田氏は“アイスホッケー漫画”について、「手あかがついていないジャンルで、なぜか本場・北海道を舞台にしたものがない」として、満足いく作品を描き上げられなかった無念を語っている。道民の誇りを胸に秘めた、デビュー作の“リベンジ”が始まることに期待したい。