『チェンソーマン』はトロッコ問題とどう向き合う? 少年漫画の常識を覆す、驚きの選択

 7月から漫画アプリ「少年ジャンプ+」で第2部の配信がスタートし、10月からはアニメもスタートした藤本タツキの『チェンソーマン』(集英社)。第1部「公安編」が週刊少年ジャンプで連載されていた本作は、主人公のデンジがチェンソーの悪魔の力で悪魔と戦うバイオレンスアクション漫画。先が見えない予測不能のストーリーと、先鋭的なマンガ表現が話題となり、高い評価を受けた。当初は勢いとセンスだけで描かれた行き当たりばったりの漫画に思われた『チェンソーマン』だったが、緻密に構成された完成度の高い作品だったことが次第に明らかとなり、11巻で第1部は見事に完結した。

 それだけに第2部はどうなるのか? と、期待半分、不安半分で、第98話を読んだのだが、「少年ジャンプ+」に移ったことで、より自由奔放な作品になっており、毎週楽しく追いかけている。そして10月には、第2部の序盤がまとめられた第12巻が発売されたのだが、まとまった形で読むと新たな発見も多く、より深く踏み込んだ物語へのアプローチに圧倒された。

※以下、ネタバレあり。

 第2部がはじまって驚いたのは、主人公のデンジがなかなか登場しないことだ。物語は三鷹アサという少女の視点から語られる。生きるために「戦争の悪魔」ヨルと契約したアサは、学校に潜むチェンソーマンを倒すために協力を要請される。チェンソーマンがいると噂されるデビルハンター部の入部試験を受けたアサは、3人1組で街をパトロールして悪魔を討伐するという入部条件をクリアするため、吉田ヒロフミとユウコとチームを組むことになる。

 クラスに馴染めないアサを主人公にした学園漫画として第2部は始まるのだが、同時に描かれるのが、第1部から続く悪魔が跋扈する日本の様子だ。公安を離れて一人で悪魔と戦うチェンソーマンは大衆から英雄視されており、チェンソーマンのTシャツやパンが売られていたり、街には「チェンソーマンを皆で呼ぶ会」というポスターが貼られている。一方、劇中では、20人のうち7人は悪魔によって命を落とすと語られる。この数字は生々しいものがあり、天災や通り魔事件のような唐突に訪れる暴力的存在として悪魔が描かれているのがわかる。

 悪魔を探すために街に出たアサとユウコ(吉田は学校をサボっていて不参加)は、コウモリの悪魔に襲われて死にそうになる、そこにゴキブリの悪魔と戦うチェンソーマンが現れる。第102話「セーブ ザ キャット」で、デンジことチェンソーマンがやっと登場するのだが、この回は第12巻、最大の山場となっている。

 コウモリの悪魔に襲われて動けないユウコを戦争の悪魔の力で「殺して 武器にしろ」というヨルに対し、アサは反発し、ユウコを抱きかかえて逃げようとするが、転んでしまう。その時にアサは自分が猫を助けようとしたことで母親が命を落とした過去と、クラスメイトにいじめられて靴を隠されたアサにユウコが靴を貸してくれた時のことを思い出す。

 イジメられるよりも、誰かに可哀想と思われる方が嫌だというアサに対して「アサちゃんの 気持ちは どうでも いいかな!」「結果は 間違えても ……」「自分の気持ちが  間違えてなければ 私はいいんだ!」とユウコは言う。その言葉を思い出したアサは、「私も! そう生きたい」と思い、ユウコを助けようとする。

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