朝井リョウ × 根本宗子 盟友の本音対談「若者のリアル」を描き切った先には何が見える?

「過渡期」の今、考えること

根本:作家として面白くあり続けることと、人間として周りの人たちに優しさをもって生きることって両立が難しいんですよね。もちろん今しか書けないモチーフや、今書きたいものっていうのもあるから悪いことばかりではないけど、でもやっぱり人間としてどう生きていくかを考え出してしまった。でも、小説家ならミステリーやSFとか、もともとフィクション度が高いジャンルならできるのかもしれない。 

朝井:私はホラー作家に憧れがあって、ホラーって読んでいるときに現実をすごく忘れられるんだよね。「どうなっちゃうの!?」っていうフィクション的ワクワクで心身が埋め尽くされる。イメージだけど、ホラー作家の方々は「人を怖がらせたい」っていう純粋な欲求から作品を生んでいるように見えて、それが素敵だなって。「自分の怒りぶち込み系」とは対極に感じるんです。 

根本:やっぱり、20代の朝井さんが書いた小説には、朝井さんがたくさん出てくるじゃない? 

朝井:怖い、怖い。やめて。 

根本:『もっと超越した所へ。』も、私がいっぱい出てくるの。でも、最近はそれができなくなってきたんですよね。 

朝井:その書き方って、もう麻薬みたいなものだよね。昔、根本さんと話していてその感覚すごくわかるなと思ったのが、タイピングが追いつかないという現象。シーンによっては、言葉が脳内で噴火して、キーボードを打つのが間に合わなくなるということがあるんです。そういうときは、この言葉はこの辺に出てくるだろうって、置き石みたいな感じで、とりあえずキーワードを原稿の遠くのほうまでポンポン置いていくんです。 

根本:感情と発想に手が追い付かなくなる現象ね(笑)。その言葉の間の穴を埋めていくんですよね。

朝井:そう。あの置き石をしているときは、まさにキマっているときだよ。 

根本:あと今、私が恐れているのが『もっと超越した所へ。』が改めて世に出たことで、根本宗子は「若者のリアルを切り取っている」と思われて、オファーがくることですよ。もう散々切り取ってきて、今はまた別のフェーズです!って声を大にして言いたい(笑)。こういう作品は当時ほど面白くは書けないってわかっているから。 

朝井:そのオファーはねえ、絶対あると思いますよ。今世に出ているものが最新の根本さんだと思うのは、受け手からすると自然なことですもん。あとやっぱりめちゃくちゃエネルギーがほとばしってるしね、『超越』。関係者の皆様、オファーお待ちしております。 

 私は、大学生のときに書いた『少女は卒業しない』という作品の映画が来春公開予定で、とにかく素晴らしい作品に仕上げていただいたので皆さん絶対に覚えておいてという気持ちなんですけど、予告編で「青春小説の名手、朝井リョウ」という文字が出てきて、もう何年も高校生の青春小説的なものを書いていないのにごめんなさい……ってなりました。 

 最初に世の中に出たときのイメージっておそらく一生消えないし、意外と自分のことも縛りますよね。周りに求められているのはこういう物語、みたいに勝手に自分に条件を課しがち。私はずっと「エンタメで長編を書くなら、主人公の成長がなきゃ」みたいな考えが脳内に君臨していて、それがさっきの「フィクションをもっと作れるようにならなきゃ」的な思考の土台にもあるんですけど、本当はそういうの全部一回忘れたい。簡単に言えば、今生で評価されたいみたいな欲望を一回全部捨てたい。小説を、何かを伝えるための道具として使うんじゃなくて、これを書いてみたかった、という気持ちだけで完成させてみたいんですよね。これは30代後半の夢!

根本:昔の自分のほうが、書いているもののジャンルや「こういう作家です」っていうのがわかりやすかったなと自分でも思います。今はどこのジャンルに自分がいるのかわからないというか、どこに行こうかなみたいな感じなんですよね(笑)。迷っているというわけではなくてそれを楽しんでいる自分もいるんだけど、ふと不安になることもあったりして。 

朝井:それが何となく不安を生んでいるのかもしれないよね。何のイメージもつかないくらい、いろんな物語が書ける人になれたらいいなぁ。書くものは自然に変わっていくしね。 

根本:私は、どっちかというと、広くいろんなものを書けるようになるより、一つの感情を大きくふくらませて書くことを本来はやりたいんですよね。ずっと恋愛を歌い続ける人のようになりたいという気持ちは昔からあります。 

朝井:確かに、ずっとラブソングを歌っている人のカッコよさってある。ずっとやり続けたら柱にも旗にもなった、という感じ。私がずっと青春小説を書き続けていたら、30代で「いつまでそういうの書いてるの?」ってなるだろうけど、50代でも60代でも書いていたら、もうそういう人になりますもんね。 

 そんなわけで、今、我々は過渡期なんです。拡大路線、独自路線、視野を狭くして突っ走るのか、視野を広くして様々なものと接続していくのか……どれを選んでも、作品が発表されたら、「ピタゴラスイッチ成功したんだね!」って思っていただけると嬉しいです。内容の評価の前に、まず、完成させられたことを共に祝ってください!

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