根本宗子『もっと超越した所へ。』インタビュー 小説、戯曲、映画脚本を書き分けて見えてきたもの

 劇作家・演出家の根本宗子が2作目となる小説『もっと超越した所へ。』(徳間文庫)を上梓した。本作は、初小説『今、出来る、精一杯。』と同じく、主宰劇団の月刊「根本宗子」で過去に上演した作品を小説化したものだ。デザイナーの真知子、ギャルの美和、シングルマザーの風俗嬢・七瀬、子役上がりの俳優・鈴と、一見するとバラバラな4人の共通点は、クズ男を引き寄せてしまうこと。パートナーへの不満はありながらも、それなりに幸せな日々を過ごしていた彼女たちだったが、ある日、本音をこぼしたクズ男たちを前に修羅場を繰り広げ、別れの危機が訪れる。果たして今度の恋愛も失敗なのか――。 
 
 来月には、自身が脚本を担当した同タイトルの映画公開も控える(2022年10月14日公開)。一つの物語を、戯曲、映画脚本、小説と、時を経て異なる形でアウトプットして気づいたこととは? 本人に話をうかがった。(イワモトエミ) 

全員が主役の群像劇を

  

――本作は2015年に上演された戯曲がベースになっています。今、小説化に至った経緯を教えてください。 
 
根本:まず、映画化のお話があったんです。それが2019年ごろだったと思います。そんな時を経て、ましてやこの作品の映画化の話が来るとは思っていなかったので、「この作品で本当に合っていますか」と確認しました。ラストシーンに向かっていく部分は映像化するには工夫が必要なので、どう映画にするんだろうなというのもあって。それで「私が脚本を担当して、山岸(聖太)監督にお願いできるのであれば」とお返事したら、OKが出て、映画の脚本を書き終えた頃に「小説版も出しませんか」と、話が進んでいきました。 
 
――本作の原点でもある戯曲は、どんな思いで書かれた作品なんでしょう? 
 
根本:実はテーマや内容が先にあったというよりも、演出家としての技術をもっと磨きたいと思って作った作品なんです。舞台版では上下に4部屋のセットを作って、4組のカップルの話がほぼ同時進行していく形にすることで、演出しなければならない部分を増やし、自分自身に負荷をかけた芝居にしました。 
 
 ずっと一緒に舞台を作ってきた女優陣、当時は私も役者を務めていたので、私を含めた4人全員が主役のような芝居を書けないかなと思いついたのが、この群像劇だったんです。 
 


――公演当時、ものすごい反響でしたよね。ラストに向けてのクライマックスで熱狂したという人が多かった記憶があります。それこそ、今回、映画化、小説化と話題にもなるタイミングでの再演というのは考えてなかったんでしょうか。 
 
根本:やってみたいなとは思うんですけど、当時ほどの熱狂を今の私が生むことができるのか、年齢を重ねたことによってこの作品を熱を持って演出できるのかというのが自分の中でも分からないんですよね。それと、舞台版は当時の女優陣に当てて書いているので、キャストを変えてというのもなかなか……。だったら、別の作品を書いたほうがいいのではないか、という思いもあります。これは2度と舞台ではやらないんじゃないかな。 
 
――同じ作品をベースに、映画の脚本、小説と、それぞれどのように執筆されたんでしょうか。 
 
根本:映画は、山岸監督をはじめとする映画のプロの方たちと一緒に作ることができたのが大きかったです。私としては、何年も前に書いた作品なので、今読み返すと荒削りだなと思ったり、勢いだけで書いているなという部分もあったりするんですよね。でも、私以上に山岸監督と(近藤)多聞プロデューサーのこの作品への信頼度がブレずに高いままだったので、私もおふたりを信じて書き進めることができました。映画の脚本は、役者たちも含めて、一緒に作る人たちがいたから書けたものだなと思います。 
 
 小説は、映画の初号試写を見た後に執筆するスケジュールにしてもらったんですよね。映画版がすばらしい出来上がりになっていたので、小説を読んだ人が「映画も見たい!」と思ってくれるものにしなければというプレッシャーがありました。でも、映画を見てから書くことで助けられた部分も多いです。セリフの段階ではどうなるか分からなかったことが目に見える形になっているので、映像からヒントも得ています。とはいえ、後半のクライマックスに向かって、どういう仕掛けで書けばいいのか、基本的に1人で考えなければならないのは大変でした。映画みたいに、最後にaikoさん(映画版の主題歌を担当)も歌ってくれないし。歌ってほしいですよ、小説の最後にも(笑)。でも、小説版も面白いところに落とし込めたので、本当に思いついてよかったなと思います。 
 

――最後の部分は、読んでいてびっくりしました。ここは読んでからのお楽しみなので詳しくは言えませんが、とある仕掛けがあります。 
 
根本:ちょっとした演出というか、小説家専業の方だったらやらないだろうなということをやってみました。私はあくまで劇作家で、小説のフィールドにお邪魔して書いているという認識なんですよね。自分が小説を書く意味は、こういう面白い仕掛けをやってみることにあるんじゃないかなとも思っていて。

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