凪良ゆう「人間の中にある善も悪もフェアに書きたい」 恋愛を通して描いた人生の物語

いろんな問題をモザイクのように散りばめた

――暁海と櫂をめぐる登場人物の中では北原先生というキャラクターも、二人の人生に長く関わる人物です。暁海に対しても経済的に自立することの重要性などを説いていますよね。

凪良:女性が結婚後も経済的に自立しているというのは、本当はごく普通のことのはず。なのに、なかなかそれができない現実があるのがおかしい。これは常日頃から自分が思っていることです。結婚していようがいまいが、子供がいようがいまいが、みんな自分で自分を養っていく経済力は持っておくべきだと思っていて。その思いが、特に暁海に対して強く出ているのかもしれないですね。

――他にも作中では、女性にだけお茶くみをさせる風潮や男性と同等に評価されない現状など、根強く残る性差別が暁海の姿を通じて浮かび上がります。小説の中で、現代的な問題を描くときに意識されていることはありますか?

凪良:全面的に「この物語はこの問題を描いています」と見えないように描こうとは心がけています。あくまで物語なので、私は何かを訴えたいんですと表に出すのは、あまり好きではなくて。けれどもちろん、それらは私自身が日々感じている苦しさだったりするので、どこまで物語の中に自然に織り込んでいけるかを考えます。今回の『汝、星のごとく』も、ジャンルとしては恋愛小説に入ると思うんですけど、ヤングケアラーや性差別などいろんな問題をモザイクのように散りばめて組み込んでいるというか、決してどれかひとつだけを抜き出しても意味がないような、そういう書き方を意識してはいます。

書きたいものを書いていくと、結局いつもそこにいる

――装丁も美しい本書ですが、帯には本文から抜粋された「わたしは愛する男のために人生を誤りたい」「まともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない」という言葉が記されています。本作のエッセンスを示す台詞のように感じました。

凪良:暁海と櫂の台詞ですが、あれは私がこの物語の芯に据えた言葉だったので、それを編集の河北さんが見事に抜き出してくれて、お礼を言いたいです(笑)。ちゃんと私の書きたいものが伝わっているのは嬉しいですね。

――その台詞にも象徴されるように、凪良さんの描く物語には、世間的には正しいとされない生き方を、自らの意思で選んだ人物が数多く登場します。そのようなキャラクターを書くことについて、改めて思いをお聞かせください。

凪良:特別、変わった人間ばかり書こうとしているわけではないんですけど、勝手にそうなっちゃうんです。書きたいものを書いていくと、結局いつもそうなってしまう。どれだけお話を変えても、「普通ってなんだろう」「普通であることが正しいのだろうか」みたいなことが、物語の中で立ち上がってしまう瞬間がある。一時期、私はこれしか書けないのかと悩んだことがあったんですが、それを河北さんに相談したら、「それが作家性っていうものじゃないですか」と言っていただいて。その時からちょっと吹っ切れて、私は作家としてそれをずっと書いていくのかもしれないなと思っています。

――『汝、星のごとく』もそうですが、凪良さんの作品では、読み始めと読み終わりで物語が印象を大きく変えるような構成もみられます。これもやはり、凪良さんのスタイルと言えるでしょうか。

凪良:物語をラストまで読むことでまったく違う景色が見えてきます。作者としては、それを通じてどういうことを考えてほしいと限定することはできないんですけれど、何かを知らないままでいるのと知った後とでは、こんなにも物事の受け止め方が変わって見えるんだ、というのは伝えたいことの一つですね。

――凪良さんはBL小説で長らくキャリアを積み、同時に2017年以降は一般文芸の世界でもご活躍を続けておられます。最後に、凪良さんが物語を書き続ける原動力を教えてください。

凪良:他のことが何もできないというか、すごい飽き性なので小説を書くこと以外に関しては本当にポンコツなんですよ。いつも何かミスをしたり、忘れていたり。書くことが好きで、まともにできるのが小説だけっていう。でも、作家さんって、みんなそうなんじゃないですかね。いや、みんなポンコツだって言っているわけじゃなくて(笑)、みんな書くことが好きで、ただそれだけで書いているんじゃないかなという気がします。

写真提供:講談社

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