芥川賞はどうなる? 文學界新人賞を満場一致で受賞した年森瑛インタビュー「私は正確に書き起こす機械でいたい」

 文學界新人賞を選考委員の満場一致で受賞し、第167回芥川賞の候補作となっている小説『N/A』(文藝春秋)。「N/A」は「not applicable(該当なし)」、「not available(使用不可)」の2つの意味を持つ言葉だ。高校2年生の松井まどかは生理が来ることを嫌い40キロを超えない体重を維持していたら、いつしか「拒食症の女の子」として見られるようになっていた。通っている女子高では「王子様」キャラとして担ぎ上げられ、女子大生のうみちゃんとお試しで付き合ってみれば「LGBTの人」になる。まどかはただ「かけがえのない他人」を探しているだけなのに。 

 『文學界』掲載直後から大きな反響を呼んだ本作だが、著者の年森瑛(としもり・あきら)が100枚を超える小説を書いたのはこれがはじめてだったという。小説を書きはじめた理由や執筆の方法、小説と自身の関係性など、年森に聞いた。(小沼理) 

書きはじめると女の人ばかり出てくる

 ――『N/A』が大きな注目を集めています。年森さんはいつ頃から小説を書きはじめたのでしょうか? 

年森:小学校の課題で短いものを書いたことがあったのと、大学で文芸創作ゼミに入っていたので、たまに10枚くらいの作品を書いていました。文芸創作ゼミに入ったのは卒論が小説だったからです。よく先輩から「小説さえ出しておけば、出席しなくても単位がもらえるよ」と聞いていました。それ以外の場ではあまり小説を書いた経験はなくて、100枚を超える作品は今回がはじめてでした。 

――大学時代はどんな内容の小説を書いていましたか? 

年森:あまり覚えていないのですが、女性が主人公の作品をいつも書いていましたね。10代後半から20代前半くらいで、登場人物も女の人ばかり。ハッピーな話や、男の人と恋愛をする話は書いていなかった気がします。女性が多く登場するのは、何故なのかはちゃんとは分かりません。執筆はプロットや設定を練るのではなくいつも勢いなのですが、書きはじめたら女の人ばかりが出てきますね。 

頭に流れる映像を追いかけて 

 ――『N/A』を書いたきっかけを教えてください。 

年森:小説を読んでいて生理の描写が苦手で、内臓からダイレクトに血が出てくるのを想像すると血の気が引いちゃうんですよ。いつも読み飛ばしていたんですけど、自分で書いたら荒療治になって読めるようになるかもしれないと、とりあえず生理のことを書いてみようと思ったのが最初です。 

――主人公のまどかは生理が来ないようにするため、40キロを超えない体重を維持していますね。また、まどかは「かけがえのない他人」という、親友とも恋人とも違う特別な関係性を求めています。この「かけがえのない他人」という関係性には、年森さん自身が関心があったのでしょうか? 

年森:作中では「ぐりとぐら」や「がまくんとかえるくん」を例に挙げて、普遍的なことをしていても世界がきらめいて見えるような関係、重要度のヒエラルキーの中にはいない特別枠で、すごくやさしくしたいと思える人のことと書いています。 

 少年漫画を読んでいると、恋愛や友情といった既存の言葉では表せない、他の人では代替不可能な関係性がよく出てきて。その関係に昔から関心があって、今作にも影響しているかもしれません。 

――最初に思いついたのはどのシーンでしたか? 

年森:いつも先頭から順番に思い浮かぶので、頭の中に流れる映像を追いかけて書き起こすように執筆していきます。映像が止まったら巻き戻し、もう一度最初から再生します。映画も2回目だと違うところが見えるのと同じで、気づいたことを書き足しながら進めていきます。 

 登場人物もできごとも、頭の中で考えるというよりは、すでにそうなっているんですよね。流れている映像に私はついていくだけで、書いていくうちに「あ、そうなんだ」とわかる感じです。私自身はただ見えているものを書き起こしている機械なんだと思います。私は機械そのものであって設計者ではないので、テーマや世に訴えたいことなどを書く前に用意していたわけでもありませんでした。 

――考え抜いて書かれた印象を受けたので、執筆のスタイルを聞いて驚きました。小説と年森さん自身はどの程度重なっていますか? 

年森:そうですね……『遊☆戯☆王』みたいなんです。あの作品って、主人公の武藤遊戯がいて、もう一人の人格として後ろに闇遊戯がいますよね。まどかが武藤遊戯で、私が闇遊戯という感覚です。完全に別の人格だけど、私はぴったり後ろについているのでまどかの視点を共有できるみたいな感じでしょうか。 

 そうなっているのはまどかだけで、他の登場人物は違います。だから小説にはまどかがわかることしか書かれていないし、別人格だからまどかが言いたくないことは私も知らないんです。

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