おてんばお嬢様とカタブツ執事の日常ーーコメディ漫画『ことり文書』は心が温まる良質なドラマだ

 筆者はこれまで、1巻までしか出ていない漫画を買うことはあまりなかった。2巻が出て、漫画のストーリーや方向性が見えてきたところで、買うことが多いからだ。しかし、『ことり文書』は試し読みで一部分を読んだだけで目に涙がにじみ、気づいたら購入していた。本の紹介には「日常ドタバタコメディー」とあるが、筆者にとっては目頭が熱くなったり、心が温かくなったりする良質なドラマ、というのが第一印象だ。

 鳳家(おおとりけ)のお嬢様である13歳の小鳥。昔の少女漫画の定番である、学校に遅刻しそうになり食パンをくわえて家を飛び出すような、おてんばな雰囲気がある。バッドを片手に制服のまま、男の子たちと混ざって野球を楽しむくらいなので、一見お嬢様には見えない。それに振り回されているのが、専属執事の白石。お屋敷の使用人のなかでも若く、堅物で小言がうるさそうな、いかにもなお目付け役だ。

 小鳥は幼いときに母親を亡くし、5歳離れた兄は留学中で、父親は仕事で忙しく離れて暮らしているため、家に家族がいない。だが、お屋敷のなかでの日常は孤独で退屈なものではない。たくさんの使用人や専属執事である白石、学校の勉強や友達との遊びなどを通して、にぎやかな日常を送っている。この作品は、そんな小鳥の日々の記録である。

小鳥だけではなく、使用人や専属執事である白石の変化、成長も

 本作は13歳である小鳥の成長の物語かと思っていたが、それだけにとどまらない。お屋敷で働く使用人や専属執事である白石も、前向きな小鳥に大きく影響され、だんだんと変わっていく。小鳥は13歳とまだ幼く、身体も小さいが、おてんばな言動とはうらはらに、自分の置かれている状況を理解し、やりたくないことがあってもとりあえずチャレンジしてみる、周りを気遣うことができるポジティブで心の優しい子である。

 例えば、代々使用人の家系である藤崎あずみは、ミスが多く、さほど年齢も変わらないであろう白石に怒られることも多い。それに嫌気がさしていたとき、小鳥がひとり、着付けの練習をしている場面にでくわす。着付けは学校の成績に反映するものではないし、使用人に任せたらいいのにと藤崎は思うが、小鳥は、「だって悔しいもん」「できるようになったら嬉しい」「これできたら白石きっとびっくりするよ!」と恥ずかしそうに明かす。そして、「すごいですね 小鳥様は」と下を向く藤崎に、小鳥は「あずみちゃんだってすごいよ」「あずみちゃんが活けてくれるお花 いつもすっごくかわいいよ」と言葉をかけるのだ。小鳥と一緒に着付けの練習をするなかで、藤崎が使用人としての自覚が芽生えてくるシーンだ。

 一方で白石も、明るく活発な小鳥を取り巻くさまざまな事情や境遇を知り、心動かされていくことになる。小鳥の専属執事になることが決まったとき、「お前は優秀だが考えが堅いところがある 場所を変えるのもいい経験になるだろう」と上司にいわれていた。小鳥と勉強についてやりとりする場面では、なかなか言うことを聞いてくれず、自覚を持ってもらうためにはもう少し厳しくした方がいいのだろうかと、悩む白石。使用人たちにポロッと本音を漏らすと、自分だけではわからない小鳥の一面に気づき、気持ちを理解しようと、頑張りを認め、考えをあらためることになる。自分の考えを押し付けるのではなく、「一緒に考えましょう」と小鳥に手を差し伸べるシーンを試し読みでみて、一瞬でこの作品に惹き込まれた(余談だが、専属執事の名字が筆者と同じ白石だったこともある……笑)。

関連記事