【4月発売BLコミックレビュー】『大魔導師さまのお世話係になりまして』『CANIS-THE SPEAKER-』など新生レーベルに勢い

 毎月、筆者が「出会えてよかった」と胸に刺さったBL作品を紹介している「BLコミックレビュー」。今回は2022年4月に発売された作品のなかから3作品をピックアップ。甘く切ないファンタジー作品にハラハラが止まらないクライムサスペンスと、一度に読むと感情のコントロールが効かなくなりそうなラインナップとなった。

■2022年1月のレビュー
■2022年2月のレビュー
■2022年3月のレビュー

『大魔導師さまのお世話係になりまして』
(戸帳さわ/アンダルシュCOMICS/アルファポリス)

 強大な力を持つ魔術師の存在によって世界の平和が保たれている世界を舞台に、大魔術師の1人・イラと、行き倒れ記憶も失っていた青年・ネモフィラの交流が深まっていく様子を描いた『大魔導師さまのお世話係になりまして』。同作の魅力は、魔法描写によって生み出されるファンタジックな世界観のなかに垣間見える人間味だ。

 国民からは偉大な人だと崇められるイラだが、実は生活力が皆無なキャラクターでもある。もちろんこの「すごい人なのになんだか残念」というギャップにも人間味はあるのだが、それ以上にイラに“人”を強く感じるのは、彼が見せる表情にある。魔力量が多ければ多いほど長生きする魔導師だからこそ味わってきた孤独に、イラ本来の人となりが見て取れる。

 そんな彼の本質的な部分を見抜くのが、意図せず弟子という名のお世話係ポジションで振り回される日々を送るはめになったのがネモフィラであるところもポイントだろう。大魔導士の本当の姿を知り、偉大だと言われてもピンとこないネモフィラだからこそ、イラの表情の陰りに気づくのだ。

 長い時を生きるイラの孤独を、ネモフィラは救えるのか。またネモフィラが失っている記憶は物語にどうかかわってくるのか。ぜひ、見届けてほしい。

『穹花のフロレゾン』
(烏間ル/アンダルシュCOMICS/アルファポリス)

 戦争が終結し平和が訪れた、ヴァルキュリアという国にある小さな島エウミティア。この島で花屋“フロレゾン”を営むアエロナと、住み込み従業員の青年・バルドの純愛を描いたのが『穹花のフロレゾン』だ。公私ともに過ごすなかで恋人となったふたりの幸せな日々が描かれる、かと思われた。

 この作品の鍵となるのが、アエロナの秘密とバルドが失った記憶だ。ケガをして海辺に倒れ、さらに記憶喪失で先が見通せない状況に陥っていたバルドを住み込み従業員として迎え入れたアエロナだが、実は彼の過去を深く知っている素振りを見せている。彼が胸に抱え続けている秘密が、ふたりの甘い未来を約束させてくれない。

 戦争で傷ついたふたりに、心になんのつっかっかりもない幸せをつかめる日々はやってくるのか。どうか心から幸せだと思える日々を過ごしてほしいと、ふたりの明るい未来を願わずにはいられない、胸が締めつけられる一作だ。

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