ライブハウスへ足を運ぶのは命がけの行為だったーー『右手を失くしたカリスマ MASAMI伝』が伝える、80年代のアンダーグラウンド・シーン

ハードコアパンクとは、自ら信じたものを守るための心構え

 本稿の冒頭で私は、80年代の(パンク系の)ライブハウスは、暴力的であったがゆえに、一定数以上の人々を集められたと書いた。これは、一般的には、なかなか理解してもらえない感覚かもしれない。なぜならば、同じ“怖いもの見たさ”の場所でも、安全なところから観ることのできるホラー映画の劇場や見世物小屋などとは異なり、こちらの場合は、いったん足を踏み入れたら、実際に自らが傷つくこともありうるからだ。

 だが、良くも悪くも、巨大なホールやドームなどでのコンサートとは違い、狭いライブハウスで行われるパンクの“GIG”というものは、客とバンドメンバーとが“一緒に作り上げていくもの”なのだ。そこには暴力や恐怖を超えた“何か”が間違いなくある。ISHIYAはその“何か”を、「大切なものを守るため、自らの信じたものを守るためが故に、暴力も辞さない心構えと気質と行動で、世間に対して抗い続け」る姿勢だと表現している(という風に私は読んだ)。

 これほど説得力のある「ハードコア批評」は他にないだろうし、このことは、観る側にも、演(や)る側にも共通した感覚だといえはしないだろうか。

 なお、本書の巻末には、生前のマサミと親交が深かった、甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ、元ザ・ブルーハーツ)と、YOSHIKI(X JAPAN)の特別インタビューも収録されている。ヒロトが語る、ザ・ブルーハーツの名曲「僕の右手」の“真相”ももちろん見逃せないが、L.O.Xのドラマーとして、ステージの上でもそれ以外の場所でも、マサミの“背中”を見ていたYOSHIKIのリアルな言葉は、「80年代のアンダーグラウンド・シーンの記録」としても、非常に重要な“証言”の数々になっている。

■書籍情報
『右手を失くしたカリスマ MASAMI伝』
著者:ISHIYA(FORWARD/DEATH SIDE)
ISBN:C0073 978-4909852-27-4
発売日:2022年4月30日(土)
価格:2,500円(税抜)
発売元:株式会社blueprint
blueprint book store:https://blueprintbookstore.com
特設サイト:https://blueprint.co.jp/lp/ishiya-japanese-hardcore-extra/

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