「多様性」に問いを投げかける小説、朝井リョウ『正欲』に注目集まる 文芸書週間ベストセラー解説

 秩序を守るためにはルールが必要で、ルールとはたいてい、マイノリティを抑圧するものである。だからといって、多様性が認められれば、すべての人が心地よく生きていけるわけでもない。とうてい受け入れがたいと感じる自分にとって特異なものも存在することを受容しながら、少しずつ我慢しなくてはならない。そのなかで、決して明確な答えの出ることのない被害と不快の境目を探り、私たちは考え続けなくてはならないのだということを、著者は本作を通じて読者に提示する。多様性、SDGsなどというわかりやすい言葉で覆い隠されているさまざまな複雑性を、つまびらかにしながら。

 まもなく発表される本屋大賞で、本作が何位を受賞するかはわからない。けれどどんな結果になろうとも、今、読んでおくべき作品の一つであるように思う。

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