『ベルセルク』漫画史に残る唯一無二の武器! フィクションと現実との境界線に突き立つ「ドラゴンころし」

「ドラゴンころし」はなぜ重要な武器なのか

 剣というにはあまりにも大きすぎ、分厚く、重く、大雑把すぎる「ドラゴンころし」。装飾性のみに偏った武器を作らされることにウンザリした鍛冶屋ゴドーが、領主からの「ドラゴンをも殺せる剣を作って欲しい」という注文に敢えてバカ正直に乗って作った、ヤケクソのような武器である。この武器に関して重要なのは、「実用性があるかは別として、実際に同じ武器を作ること自体は可能である」という点だ。

 現実的なヨーロッパ史から離れ完全にファンタジーへと移行した『ベルセルク』の世界において、人間が実際に作ろうと思えば作れる武器が大きな威力を持っていることの意味は重い。人であることをやめて完全にファンタジーの世界の住人となったグリフィスと、あくまで人の身を保ちながら人ならざる敵に対抗しようとするガッツ。そのありようの差とガッツの立ち位置を象徴するのが、ギリギリのところで現実側に存在している大剣「ドラゴンころし」なのだ。

 物語が進むにつれ、「ドラゴンころし」にはこれまで使徒や魔物を斬り続けてきたことで、一種の魔剣のようなパワーがこもっていることが明かされる。しかしそれでも「ドラゴンころし」自体は人間が鍛えた鉄で作られた、現実に存在しうる武器であることに変わりはなく、それを振るうガッツもまた人の身を保ち続けることにこだわる。「ドラゴンころし」は、『ベルセルク』のヨーロッパ史に根ざした現実的かつ人間的な要素と、ダークファンタジーとしての非現実的かつ非人間的な要素との間を橋渡しする役割を負っているのだ。

 このような役割を負っているからこそ、「ドラゴンころし」は『ベルセルク』という作品を象徴するようなアイコンとなった。現実のヨーロッパで繰り広げられた傭兵戦争の史実を丹念に拾い、そしてそこにダークファンタジーとしての膨大な要素をミックスした『ベルセルク』にとって、両者の間を取り持つ「ドラゴンころし」ほど重要な武器もない。フィクションと現実との境界線に突き立つ「ドラゴンころし」は、漫画史に残るべき唯一無二の武器なのである。

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