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先が読めない『ジーンブライド』に期待

『ジーンブライド』高野ひと深(祥伝社)

 最後に、もう1作、7位に選んだ『ジーンブライド』について、紹介したい。と言ってもこの作品、1巻全体が「長いプロローグ」のような作りになっており、ラスト4ページの衝撃的な展開も含め、いまの段階ではネタバレは避けるべきだろうし、また、そもそもそのネタ自体、非常に説明しづらいものになっている。

 物語のジャンルは、一見、フェミニズムの要素が強めな、ヒロインの日常を描いたある種の「恋愛物」ないし「職業物」のように思える。しかし、タイトルの「ジーン」、すなわち「遺伝子」という言葉も含め、物語の要所要所でSF的な謎がさりげなく散りばめられており、それが第1巻の最後の最後で回収される。だが、そこで何が起きているのかはまったくわからない。

 これはなかなかすごいことであり、単行本1冊分のページ数を費やしても、「何が描かれているのか」、あるいは、「どこに向かおうとしているのか」わからない漫画を、私が評価することは基本的にはない。それでもこの漫画から目が離せないのは、主人公とその相手役の男性のキャラが立っているからか、あるいは、高野ひと深の漫画の「見せ方」が、よほど上手いかのどちらかだろう。いずれにせよ、2巻以降は1巻とはまた異なる印象で、読ませてくれるはずだ。2022年はまず、この作品に期待したい。

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