【漫画】アルバイトと映画に明け暮れた日々の尊さ Twitterで共感の嵐『真夜中に映画をみる話』

ーー眠れない、眠りたくないときにだれかと会話をしているような気分になれるお話だと感じました。『真夜中に映画をみる話』を描こうと思ったきっかけを教えてください。

午後:自分は独りだと再確認する冷たい夜の中にいるとき、きっと誰しもが救いを求めて何度も思い出す宝物のような記憶を持っていると思っています。私の場合は、本作で描いた映画を借りるために身を粉にしてアルバイトをしていた日々の記憶です。

 その渦中にいるときには分からなかったのですが、あの時期には青春とはまた違った輝きがありました。そういった輝かしい記憶を大切に思い出すことの楽しみを誰かと共有したい、また苦悩から抜け出す方法のひとつとして記録しておきたいと思ったことが、本作を描こうと思ったきっかけです。

ーー映画のディスクが一輪の花に見えるシーンがとても素敵だと感じました。

午後:私は学校をとても苦痛に感じる学生だったのですが、「この授業の時間だけは間違いなく、私の救いだ」と思った瞬間に、生い茂る無数の雑草の中にぽつんと生えた名前も知らない花を見つけたような感覚になったんです。そのときに回り道にしか咲いていない花もあることを実感し、いつかお話として描こうと思いました。

ーー午後さんの描くお話には夜中や早朝が多く登場する印象があります。

午後:夜中や早朝は「社会が動いていない」というだけで、まるで異世界にきてしまったような、お腹の底がくすぐったいような不思議な感覚に陥ります。私はその感覚の中に、社会で背負った苦悩から抜け出すヒントが隠れているような気がしています。日中とはまた違った角度から物事が見えると言いますか……。そういった可能性を感じさせてくれる時間帯だと思っています。

ーー午後さんは映画だけでなく漫画や音楽も好きだと伺いました。これらの作品は午後先生にとってどのような存在でしょうか。

午後:人間の美しいところだけを抽出した究極のコミュニケーションツールだと思っています。人間は多角的で非常に複雑な生き物であり他者との相性があるので、どうしても会話によるコミュニケーションでは雑音が混ざってしまうと感じます。しかし作品はその作者の信念のようなものが不純物を完全に取り除かれた状態で磨き上げられていて、その上半永久的に存在し、長きにわたって誰でも受け取ることができるからです。

ーーSNSに作品を投稿し続けていくなかで、午後さんの心情や生活などに変化はありますか。

午後:実は投稿を始めた最初の頃は、過緊張で不眠と食欲不振に陥り、倒れてしまうこともありました。自分の中の一番柔らかいところを、多くの方に触れられることが酷く怖かったのだと思います。しかし届いて欲しい方に届き、お言葉をいただけたことが本当に心の支えになって、今では楽しく投稿を続けることができるようになりました。

ーー作品を継続して投稿することは、多くのクリエイターが悩む程に大変なことかと思います。

午後:私も継続することが本当に苦手で、担当編集者さんに「描き続けられる保証がありません」といった内容を伝えたりもしていました。しかし読んでくださる方がいる以上、その人のために描き続けたいという気持ちが原動力となって、なんとか続けられています。

 あと、とにかく「継続」を制作の最優先事項に置くことにしています。絵のクオリティを上げることや話を面白くすることを優先して、そのうえ継続して投稿することを考えると私はいっぱいいっぱいになってしまうので……。何より「継続は力なり」という言葉を信じています。

ーー今後どのような作品を執筆されていきたいとお考えですか。もしよろしければ教えていただきたいです。

午後:『眠れぬ夜はケーキを焼いて』を「前進」とするならば、「停滞」をテーマにした作品も描きたいと思っています。人間はいつでも前を向けるわけではないので、執着や後悔、過去の呪縛などを内包することを肯定する内容にしたいです。

ーー最後に『真夜中に映画をみる話』を読んだ方へメッセージをいただきたいです。

午後:授業を受けるまで、実は、何時間も拘束されるという点において映画が苦手だったのですが、自分に合う映画との出会いによって、価値観が180度変わりました。漫画内で紹介した映画が必ずあなたにも合うとは限りませんが、それを取っ掛かりとして、お気に入りの映画や監督を見つけていただけたら心から嬉しいです。

■書籍情報
本作が収録される『眠れぬ夜はケーキを焼いて2』は10月28日に発売予定!
『眠れぬ夜はケーキを焼いて2』
著者:午後
出版社:KADOKAWA
発売日:2021年10月28日

『眠れぬ夜はケーキを焼いて』
著者:午後
出版社:KADOKAWA
発売日:2021年1月21日

関連記事