『SPY×FAMILY』&『スパイ教室』に見る、最高にカッコいいスパイの条件

 世界で最もカッコいいスパイが、ショーン・コネリーによって演じられ、若山弦蔵が声を当てた007ことジェームズ・ボンドであることは絶対として、現在の世間でカッコいいスパイを挙げた時、遠藤達哉のマンガ『SPY×FAMILY』に出てくるロイド・フォージャーと、竹町のライトノベル『スパイ教室』のクラウスの2人が並び立つ。共に国を代表するスパイだが、近寄りがたい存在ではなく、ちょっぴりヌけたところが愛らしさを誘い、部下たちも読者も引きつけて止まない。

 鉄のカーテンによって分断された西国(ウェスタリア)と東国(オスタリア)のうち、東国で精神科医をしているロイド・フォージャーには秘密があった。実は〈黄昏〉と呼ばれた西国の敏腕スパイで、東国の政治家ドノバン・デズモンドに接触し、政情を探るために潜入した。娘のアーニャは養子で、息子が通う名門校に現れるドノバンに子どもを介して接触しようと、孤児院を訪ねてもらったもの。妻のヨルも、母親がいないとアーニャが名門校を受験できないため、婚活して迎えたものだった。

 疑似家族。それだけでも興味深い設定だが、『SPY×FAMILY』の場合はアーニャがエスパーで、人の心を読めるという点が特別だ。ロイドがスパイだと知りながら、というよりスパイを知ったからこそ面白そうだと養女になった。ヨルはヨルで、東国で〈いばら姫〉の名で恐れられている凄腕の殺し屋。独身のままでは世間からいらぬ嫌疑をかけられると結婚相手を探していたところ、心を読んでヨルが殺し屋だと知ったアーニャがロイドを動かし、お互いを接近させた。

 アーニャだけがロイドやヨルの正体を知っていて、ロイドはヨルやアーニャに、ヨルもロイドやアーニャに自分の正体がバレないかといった不安を抱えているシチュエーションから生まれるすれ違いに、ハラハラさせられるのが『SPY×FAMILY』シリーズの特徴。もちろんロイドはロイドで、ヨルはヨルで完璧なまでにスパイであり、殺し屋の任務を果たす様がそれぞれにカッコ良い。

 第6巻のMISSION:37から、6月4日に出た最新刊の第7巻MISSION:38にかけ、ロイドはアーニャが通うイーデン校の同級生、ダミアンに近づく形でターゲットのドノバンと初の接触を果たす。そこまでの段取りがなかなかの工夫ぶり。面談がかなったドノバン相手に巧みな話術で心理を探ろうとする姿に、凄腕スパイとしての片鱗を見る。

 アクションでも、第1巻のMISSION:1からアーニャをさらった組織を格闘技で圧倒してのける。もっとも、第7巻のMISSION:40で、研究所潜入の任務に未来予知ができる飼い犬のボンドを連れていく姿がやや滑稽。決して冷酷無比ではなく、人間らしい部分があることが、殺し屋のヨルや、彼女の弟で国家保安局に務めながら〈黄昏〉を追うユーリに、正体を気づかれない理由なのかもしれない。

 ヨルはヨルで、妻であり母親として頑張ろうとして、食べたら死ぬような料理を作ったり、殺し屋としてのパワーをつい発揮して身の回りのものを壊したり、ロイドを負傷させるギャップが魅力を増加する。正体を明かせないで生き続ける窮屈さに、ロイドも含めて皆がだんだんと気づいていった先、フォージャー家に何が起こるのかが楽しみだ。

 ロイドは〈夜帷〉と共同作戦をとったり、家庭生活をそつなくこなしていたりする部分に完璧さが現れているが、『スパイ教室』に登場するクラウスは、まるで逆なところに凄みが現れる。

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