『異世界居酒屋「のぶ」』がアニメ化と実写化をともに果たしたワケ 独自の立ち位置を考察

デフォルメキャラによるスピンオフマンガにまで拡張できる世界観

 ラノベ(二次元)寄りにも一般文芸(三次元)寄りにも振れるこの世界観/作風の強みは、一方では実写のバラエティやドラマに転換できる点にあり、もう一方ではスピンオフマンガ『異世界居酒屋「のぶ」 ~エーファとまかないおやつ~』(漫画ノブヨシ侍、原作・蝉川夏哉)に現れている。

 『エーファ』は「のぶ」で働くしのぶと異世界人エーファが店主(大将)の目をかいくぐって――たいていバレているが――まかないのおやつづくりに血道をあげ、スイーツを堪能するというコメディ色の強い作品だ。絵柄は原作イラストやアニメ版と比べてもデフォルメされている。

 ラノベやなろう作品では、キャラの頭身を低くしてコメディ要素を強めたスピンオフマンガが作られることはよくある。

 だが、一般文芸作品ではマンガ化されること自体が少なく、されたとしてもスピンオフの短編ギャグマンガまで生まれることはまれだ。ライト文芸でも、本作以外には同じような手法でのスピンオフはあまり見かけない。

 こうした、IPとしての拡張可能性の幅の広さにこそ、『のぶ』の「なろう系でライト文芸」という立ち位置のおもしろさがある。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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